すべてはあの花のために①

ツンデレありがどうございまあーずっ!




「ん?」


 初めは、あまりにも小さい声だったし、彼のいつもの口調じゃなかったので、聞き間違いかと思った。でも、どうやらそうではないらしい。

 彼の目線はしっかりと、こちらを向いている。


「――……」


 すぐだったかもしれない。
 いや、もっと後だったかもしれない。

 彼は、ぽつりぽつりと話し出す。


「……服、いきなり掴んじゃってごめんね」


 苦しかったでしょ?
 そう伝えたいのか、彼は右手を葵の首元へとやさしく添える。


「睨んじゃって、ごめんね」


 今度は両手を肩に乗せてそっと距離を詰めてくるけれど。あまりにも申し訳なさそうな口調に、葵はその場から動かなかった。

 いや、動けなかったんだ。


 はじめは、ゆっくり。はっきりと気持ちとともに届いてくるが。


「怒っちゃって。……ごめんね」


 次の瞬間には泣き出すのではないかと思うほど、彼の顔がくしゃっと歪み。

 そしてだんだん声も小さくなっていって、彼との距離が、ゼロになる。



「……――……――、――――。……ごめん」


 耳元で言われた言葉は、最後の「ごめん」しか聞き取れられなかった。
 きゅっと、あまり力は入れられていないが、彼の腕に抱き締められる。まるで、何かに縋るように。


 一体何が起こったのだろうか。そう聞こうと思ったら、


「い、一体どういう――!?」


 どういうわけか、いきなり体が重くなった。


「え。……え? か、カナデくん? い、一体どうしたんだ!?」


 そう聞いてみるが、彼からの返答はない。


「(寝てる……?)」


 しかも、静かな寝息が耳に届いてくる。

 えー……。どうすればいいのこの状況ー……。


< 49 / 254 >

この作品をシェア

pagetop