すべてはあの花のために①
ツンデレありがどうございまあーずっ!
「ん?」
初めは、あまりにも小さい声だったし、彼のいつもの口調じゃなかったので、聞き間違いかと思った。でも、どうやらそうではないらしい。
彼の目線はしっかりと、こちらを向いている。
「――……」
すぐだったかもしれない。
いや、もっと後だったかもしれない。
彼は、ぽつりぽつりと話し出す。
「……服、いきなり掴んじゃってごめんね」
苦しかったでしょ?
そう伝えたいのか、彼は右手を葵の首元へとやさしく添える。
「睨んじゃって、ごめんね」
今度は両手を肩に乗せてそっと距離を詰めてくるけれど。あまりにも申し訳なさそうな口調に、葵はその場から動かなかった。
いや、動けなかったんだ。
はじめは、ゆっくり。はっきりと気持ちとともに届いてくるが。
「怒っちゃって。……ごめんね」
次の瞬間には泣き出すのではないかと思うほど、彼の顔がくしゃっと歪み。
そしてだんだん声も小さくなっていって、彼との距離が、ゼロになる。
「……――……――、――――。……ごめん」
耳元で言われた言葉は、最後の「ごめん」しか聞き取れられなかった。
きゅっと、あまり力は入れられていないが、彼の腕に抱き締められる。まるで、何かに縋るように。
一体何が起こったのだろうか。そう聞こうと思ったら、
「い、一体どういう――!?」
どういうわけか、いきなり体が重くなった。
「え。……え? か、カナデくん? い、一体どうしたんだ!?」
そう聞いてみるが、彼からの返答はない。
「(寝てる……?)」
しかも、静かな寝息が耳に届いてくる。
えー……。どうすればいいのこの状況ー……。