すべてはあの花のために①
三章 役目

sideミノル




 ――その日の放課後。
 大きな重扉から、小さいが意志の強い音が耳に届く。


「(来たか)」


 遠慮することはないと言ったからだろう。
 訪問者はギギギ……と音を立てて扉を開き、こちらへと歩みを寄せてくる。


「(思ったより早かったな)」


 そうこうしているうちに訪問者は、後方で歩みを止めた。


「やあ、いらっしゃい。来るんじゃないかと思っていたよ」


 どうやら彼女は、ほぼ“わかっている”ようだ。
 でもそれは完全ではない。
 それはまだ、“わかってもらっては困る”のだから。



「道明寺葵さん」


 彼女は、真っ直ぐに自分を見つめてくる。
 その瞳には、何か特別な力が宿っているのだろうか。考えていることが、すぐにでもバレてしまいそうだった。


「理事長、お話したいことがあります」


 そう言って彼女は話を切り出した。


 * * *


「――――……。理事長を疑っているわけではないんです。確かに先程教えていただいた理由も本当だろうと思います。でも、そうだとしても彼らは【   】だ。それは彼らを知っているようで知らないわたしだから気付いたのかもしれない……いや、違いますね。わたし(、、、)だから気が付いたんだ」


 彼女はそう、言葉を選びながら続ける。


「でも、理事長はそれに気が付いていたんじゃないですか? 恐らく理事長だけでなく朝倉先生も。そして、できなかった」


 そこまで気が付くとは。やはり彼女は、しっかり見えている人間だ。


「だから、そんなわたし(、、、)を理事長は引き止めたかった。そうじゃないんですか?」


 彼女が言う『わたし』に、大体の見当は付いている。でも。


「そうだね」


 まだ全てを曝け出すにはいかないんだ。すまないね。


「……やっぱり。そうだったんですね」


 てっきりショックを受けてしまうのでは、と思っていた。しかし、どうやらもう彼女の心は決まっているらしい。


「(そうか。それはとても……)」


 とても悲しい選択、だね。


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