すべてはあの花のために①

ごめんなさい取り乱しました続けてください




 理事長室から出てきた葵はというと。


「(もお! 何なんだキク先生は! 久し振りにこんな頭使ったよ!? やっぱりあの人は危険リストに加えておかねばっ!)」


 無性にイライラしていた。


((まあ、あんな話し方されたら、誰だってどっと疲れるもんよ))

「(そうそう! 本当さ、こっちがハゲるんじゃないかと思ったよ! あれは絶対モテないね! 一緒にいたらストレスでハゲちゃう!)」

((それは同感だけど……でもあんた、話すの別に苦手じゃなかったじゃない。寧ろ))

「(うーん。そうなんだけどさ、なんか久し振り過ぎてね! さ! 今はそれどころじゃないぞ! これからどうしていくのかいろいろ考えないと!)」 

((……逃げたね?))


「――……っ。ぁあ……」

「ん?」


 相変わらずそんなやり取りを一人でやっていた葵は、どこかから声が聞こえた気がしたので、そちらの方へと足を進めてみることにした。



「(なんだなんだ?)」


 葵は一つの空き教室にたどり着いた。そこのドアが少し開いていたので、ちょこっと覗いてみたが……



「っん。ぁああ……」

「はっ。すごい気持ちよさそ〜な声」

「あっ! だ、だめえ……」

「ふーん、ここがい〜んだ」

「か。……でくん、ぁっ」

「それで? そろそろその気に……?」

「…………」


 最中の彼と、バッチリ目が合う。
 けれど彼は、こちらににやっと視線を送った後、徐々にその行為を激しくしていく。こちらが照れたりすると思っているのだろう。


 けれど、それを見ていた葵はというと。


「(ハッ)」


 思い切り馬鹿にした顔を向け、あっかんべーしてさっさとその場から立ち去ってしまったのだ。


「……あれ?」


 相手はぐったりした状態で身体を預けてくるが、彼はというと、その口のまま間抜け顔になっていた。

 うん。そうなると思うよ?
 ちょっと前は、耳にキスしただけで真っ赤になってたもんね。


「……な、ん……」


 けれど、彼は見逃さなかった。
 葵はしれっと、その教室を後にしようとしていたみたいだけれど、僅かに見えた横顔が、苦しそうに歪んでいたのだ。


「……かなでくん? どう、したの……?」


 鼻にかかる甘ったるい声。続きを求めるように、大きく開いた胸元にするりと手を入れてくるのは、ここの先生だ。強過ぎるほどキツい香水に、少し頭が痛い。


「セ〜ンセ。そういえば俺、これからちょ〜っと用事あるんだった」

「え! 圭撫くんから誘ってきたのに」

「ごめんね〜」

「それより。……いいのかしら?」

「うーん。まあ、別にいっかな〜って」

「そう? 圭撫くんが、それでいいのなら」


 それから二言三言話した後、「それじゃ〜ね」とカナデは、だらだら~っと。ふらふら~っと。教室を出て行った。が。



「(アオイちゃん待って……っ!)」


 教室を出た途端低い姿勢で駆け出したカナデは、一目散に彼女の元へと急いだのだった。


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