すべてはあの花のために①
歯あ食い縛れっ!!
「アーオイちゃん。帰ろー」
うわ~! 友達と帰るなんて初めてだ!
「そういえばさ、アオイちゃんって編入生でしょ? どうしてここに? 編入試験難関だって聞くし」
彼にとっては、きっと何気ないことだったのだろう。葵は苦笑いしながら、道明寺家のお金事情について少し、話をすることにした。
「……そ、そうだったんだ」
聞いて申し訳なさそうな顔をされてしまったので、慌てて「あのね」と続ける。
「本当のことを言うと、あんまり来たくはなかったんだ。自分を駒みたいに扱われてるし。でも、今は来てよかったって。そう思ってるよ」
葵の心からの笑顔に、彼は「そっかー」と少し嬉しそうに答えてくれた。
――……でも、これが全てではない。
これは、決して最後まで言えないことだから。
今ここで、まだとか、今はとか。
たったそれだけを言うだけで、ついぼろが出てしまいそうになる。
だからこの話は――――ここまでだ。
「そういえば。アオイちゃん編入生だから知らないと思うんだけど、明日早速生徒会としての大仕事があるからねー」
「大仕事? 一体どんなことするの?」
「それはねー、俺と愛の共同作ぎょ――ぐはっ!」
「え?! か、カナデくん?!」
いきなり何が起こったのだろうか。カナデは、ずべべべべーんッと、両手を前に出して、それはそれはとても綺麗に廊下を滑っていった。彼の背中には、何故か靴の跡がついている。
「おいカナ! なんで勝手に帰ろうとしてんだよ! オレら置いて帰る気かよ!」
何に蹴られたのだろうかと後ろを振り向くと、そこには腕を組んで立っているチカゼ。その後ろには、他の生徒会のメンバーが揃っている。
「もっ、もしかして、待っててくれたの……?」
葵がそう言うと、みんな揃って微笑んでくれた。
……そっか。待っていてくれたんだ。理事長との話も、カナデとの話も結構時間がかかってしまったのに。
「あ、ありがとうみんな! 一緒に帰ろう!」
葵は、初めての友達とともに、ほんの少しだけ仮面を着けて、楽しく下校していったのだっ――――