すべてはあの花のために①

ひょこまでだヒェーッ(ト)!!


「この近くで声が聞こえましたわ!」
「本当ですか!? どこですかー?!」
「チカゼくーん!!」

「「――!?!?」」


 大ピンチである!
 なんと、チカゼ狙いの女子生徒が体育倉庫の近くまで来ていたのだ!


「(やばーい! チカくんどうする――)」


 チラリ横を見たら、先程は驚いていたものの、今は全然慌てていないチカゼがいた。


「ち、チカくん?」

「しっ」


 そう言って彼は葵を引き寄せて、後ろから包み込むように手で葵の口を塞いだ。


「ん! んーん!?(ち、ちかくん!?)」

「静かにしてろ」


 耳元でチカゼの声が聞こえてくる。実は耳が弱い葵は、逆にピンチである。

 一度ガラガラッと倉庫の扉が開いてビクッとしたが、奥まで入っては来なかったし、道具で隠れていた葵たちはバレずに済んだ。


 もう喋らないと伝わったのか。口から手を放してくれてほっと一安心しているのも束の間。何故か今度は、手をぎゅっと握ってくるではないか。


「(……は、早くどっか行って……!)」


 彼はただ、彼女たちが通り過ぎるのを待っているだけだ。でも、その温かくて大きくて、少し骨張った男の子の手に、葵は安堵しながらも別の意味でそわそわが止まらなかった。


 ……そわそわが無事治った頃。外が静かになる。どうやら、彼女たちは立ち去ってくれたようだ。


「チカくん? 行ったみたいだけど……」


 どうしたんだろうか。彼はまだ真剣な表情を崩さない。
 そうしたらいきなりスッと立ち上がり、扉の方へと近付いていく。


「え? チカくんどうしたの」

「囮になる」

「え!? いやいや、ここでじっとしてた方がいいんじゃないの?」

「この辺で声が聞こえたことは知られてるから、人を呼んで来られるかもしれない。そうなったら、オレら二人ともお陀仏だ」


「でも」と、彼は続ける。


「オレは、諦めたわけじゃないから。――オレが、お前を助けるよ」


 大人びた顔でそう言った彼は、颯爽と倉庫から飛び出していった。



 しかし、そんな彼の格好良かった姿は、あっという間に見られなくなる。

【残り時間……あと13分】


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