すべてはあの花のために②
違うからっ
三日間お世話になる宿は、目の前に広大な海が広がるザ・老舗旅館。みんなは毎年のことなのか、旅館の方々と仲が良いみたいだ。どうやらトーマとも顔見知りのよう。
荷物を置いてすぐグループを分けした結果、飾り付け班になった葵、ツバサ、カナデ、アキラ。四人で先にある程度の飾り付けを行い、足りないものを観光班にお願いする手筈となった。
「それじゃあ行ってくるねー!」
「うんっ。いってらっしゃい!」
キサをはじめとする観光組を見送り、早速葵たちは飾り付けに取り掛かる。予め用意してくれていた段ボールの中には、紙の花や三角形が連なった物などがある。
「うーん」
「どうしたの?」
「なんか……特別な感じが欲しいなと」
「特別?」
「例えば……キク先生だから、菊の花をいっぱい飾ってみるとか?」
「それなら、キク科に絞ってガーベラとかヒマワリとか、ダリアとかコスモスとか飾ってもいいかもしれないわね」
いつのまに調べてくれたのか、彼の手にはスマホが。画面には、色取り取りの綺麗な花が咲いていた。
「すごい! 流石ツバサくん!」
「お褒めのお言葉ありがとう。それで? 何かいいのはあったかしら?」
「うんっ!」
その花は、当日の朝に取りに行くことになった。随分と華やかになりそうだ。
「じゃあ、アンタたちはそっちお願いね。アタシたちはこっちやるから」
「わかったー!」
アキラとペアを組んだ葵は、彼と一緒に壁の装飾を担当。
「よし、こんなものかな。アキラくん、次のお花を――」
振り返ると、いつの間にか彼は壁にもたれかかって眠っていた。
葵は心配になったものの、ひとまずツバサたちに一声掛けて布団を取りに。アキラを起こさないようそっとお姫様抱っこして、布団へ。随分と眠りが深いのか、彼は一切起きなかった。
「……ツバサ。まさかとは思うけど、俺も同じような目に遭ってたり……」
途中カナデから何かについて問い質されていたツバサだったけれど、何故か彼は一切口を割らなかった。
「……それにしてもアキ、ぐっすり眠ってるわね」
「ここ最近、ぼーっとしてることも多かったねー」
三人はどうしたもんかと思いながらも、なるべく音を立てないようできる範囲で飾り付けをすることに。いつの間にか帰ってきた前半組のみんなだったが、大体の飾り付けは終わっていたので、各自自分の好きなことをした。