すべてはあの花のために②

何が出るかな?


 あっという間に100m走が終わり、生徒会のテントに戻ると、次のパン食い競争に出るチカゼとオウリは入れ違いになるように出て行った。


「ヒナタくんは出ないんだね」

「全員参加しか出ないよ」


 確かに君がパンを咥えているところは想像できないかも。……見てみたい気もするけど。


「(嘘……! ウサギとネコの対決!)」


 そうこうしている間にパン食い競争が始まった。そしてあろうことか、同じ組にチカゼとオウリが!

 以降カナデの実況でお送りします。


『おーっと! 一気に飛び出したのはSクラスの柊選手! 彼が一番に辿り着いてぶら下がっているパンに食いつきます! しかーし! 何故彼はそこを選んでしまったのでしょう! 自分は背がちっさいくせに一番高くぶら下がっているパンを目掛けて飛びつきます! そして……やっぱり届かな~い! やっぱり彼は馬鹿だったー! 自分の身長とプライドを天秤にかけ間違えてしまったようです!』


 そんなカナデの実況に、遠くで「うっ、うるせーっ!」と半泣きの叫び声が。


『おっとー? ここで少し遅れてきた氷川選手! 彼も一目散に一番高いところのパン目がけて走っています! どうしてこうもプライドに負けるのか――――いや! 彼はそのまま柊選手の肩に手を置き、彼を飛び越えると同時に彼が狙っていたパンを咥えてゴールへ向かっていったーっ! やっぱり柊選手は馬鹿だったー!』


 パンを咥えたオウリはというと、表情は人前だからあまり変わらないが、少しチカゼを振り返った時の横顔は不適に笑っていたような気がする。


『おお?! ここで柊選手! どうやら一番低い位置のパンに目標変更したようです! 食らい付いた勢いで氷川選手を追いかけます! どうやら男のプライドは捨て去ったようです! いや! もはやズタボロになったのかもしれません!』


 きっとダメージが大きかったのか、チカゼはもうカナデに反論しなかった。いや、図星だったのかもしれない。


『あんなことをされながらも氷川選手に続き、柊選手がワンツーフィニッシュ! 彼の背は高くなかったが! 脚力は高かったようですっ!』


 2番の旗を持っているチカゼは、シクシク泣きながら俯いている。そんな彼をオウリがよしよしと宥めているところを、一瞬たりとも逃さないと、彼らのファンが写真を撮りまくっていた。


「きゃあー! 柊くん可愛いっー!」
「氷川くんもなんて優しいのおー!」
「こっち向いてーっ!」


 やっぱりアイドルだったのね、君たち。


「(チカくん可哀想に……)」


 でも、そんな彼を宥めてあげることができない。次は2年生全員によるマスゲームだからだ。
 葵たちは入場門に行くが、どうやらカナデはチカゼが来るギリギリまで実況をするみたいなので、そのまま置いていった。


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