すべてはあの花のために②
十六章 アサガオ

 その少女は、言うなれば希望。狭苦しい世界を照らす光。
 そしてきっと、――……最後の夢物語。


『また、たくさん傷を作ってきたんだね』


 おいでと、言われるまま歩み寄る。
 倒れ込むようにして、座る足にしがみついた。

 大きな手が、何度も頭を撫でてくれる。新しく作った傷を、やさしく手当てしてくれた。
 このやさしい手が、大好きだった。大きくて、あったかくて。それから……。


『ん? ……やってみるかい?』


 染み付いた、鮮やかな色と油絵の具のにおいも――……。




「……はあ。……っ、はあ……」


 ――集中しなさい。

 耳に残る、厳格な声。


 ――できないのならやめなさい。すべてだ。

 重くのし掛かる言葉。責任。


 ――捨てなさい。今すぐに。

 逃げることは……許されなかった。



「――――……」


 俯いた拍子にぼたぼたと落ちてくる。
 それは汗なのか。それとも他の何かなのか。


「……ありがとう、ございました」


 それを知ろうとは、……もう思えなかった。


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