すべてはあの花のために②
sideアカネ
今はおれのおじいちゃんが師範をやってるんだけど、基本は柔道だけ。希望者には空手も少し教えてるんだ。おれもそこでおじいちゃんに教えてもらってて……本当は、次に継ぐのは父さんだった。
でもある日、仕事の帰りに交通事故に遭った父さんの足は、動かなくなってしまった。共働きの母さんは、動けない父さんを支えてくれてるんだ。
それで、跡が継げなくなった父さんの代わりに、おれがその道場の跡を継ぐことになったんだけど……当時、まだ小さかったおれに、おじいちゃんは一日中稽古をつけた。
まだまだだ。
そんなことでは道場を継げない。
幼い頃からそれなりには強かった。でもおじいちゃんの稽古はエスカレートしていくばかり。
稽古に出なかったおれに強く当たったりもした。でも、それだけならまだよかったんだ。おれだけなら。
おじいちゃんは見境無く習いに来てる生徒たちに当たったり、母さんに当たったり、終いには父さんの足のせいにして、父さんにも当たることもしばしばあった。おれは、自分のせいだってわかってても、怖くて、つらくて、稽古から逃げた。父さんに隠してもらってた。
そんなおれに父さんが教えてくれたのが絵。
おれはね、一番得意なのは絵画なんだ。特に風景を描くのが。
それから、このアトリエに逃げ込んでは父さんと一緒に絵を描くようになったんだけど、それも長くは続かなかった。