すべてはあの花のために②

警察のお世話にはまだなりたくないですうーッ!


 キサと一緒に露天風呂に入った後、はしゃぎすぎて少し逆上せた葵は、カラコロと下駄を鳴らして外へ涼みに出かけていた。


「(明日は、とうとう海に入るのか……)」


 いつの間にか海の近くまで来ていた葵がため息を吐いていると、つんつんと浴衣の袖が引っ張られた。振り返るとそこには、湯上がりで頬をピンク色に染めたオウリが。


「ど、どうしたの?」


 とってもかわいらしくて涎が出そうだったが、それこそ本当に警察にお世話になりかねないので、最近は『脱変態』を目標に頑張っている葵。必死に葛藤していると、何故かオウリが葵を引っ張って砂浜に連れて行こうとする。

 流石にお風呂入り直しかな……そう思っていると、オウリは転がっていた木の棒を手に取り、砂に何か文字を書き始めた。


〈あーちゃんは 変態になって あっくんをおそってたの?〉


「(あーちゃん……! じゅるっ)」

((いやいや、喜ぶところじゃないから。『変態さん』って呼ばれて――))

「(そうやってわたしを呼んでくれてたんですかあああー……!)」

((ダメだこりゃ))


 最初はぎょっとしたオウリだったが、泣き始めた葵の頭を、心配そうによしよしと撫でてくれる。


「(ううぅー。お腹いっぱいですうー……)」

((でもこのままだと、そのかわいい彼にも変態だと思われ続けることになるわよ?))

「(余韻に浸っているのでほっといてください)」

((はいはい。……相当嬉しかったのね))


 しかしオウリはというと、唸りながら泣き止まない葵を見ておろおろとし始めた。


「(おっと、流石に引かれるのだけは嫌だわ)」

((時すでに遅しだと思うけど))


 ゆっくり顔を上げると、オウリは「だいじょうぶ?」と言いたげな顔で覗き込んでくれた。


「だ、大丈夫だ、オウリくん。……そのままだと君が危ないから少し離れようか」

((おっと。オオカミになる寸前だったらしい))


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