すべてはあの花のために②
十一章 時間

生きていたら右手上げてください!


 6月に入ると、すっかり気温も高くなり、ほとんどの生徒が夏服になった。そんなある日。


「えっ? 海水浴?」

「ああ、葵は知らないんだよな」

「毎年みんなで理事長のプライベートビーチへ遊びに行くんだよー」

「もうそんな時期なんだねえ」

「(にっこり♪)」


 みんなが盛り上がっている中、葵は一人静かに俯いていた。


「ん? アンタ、どうしたの?」

「え? あーいや。わたしも行っていいのかな~って」

「当たり前だよあおいチャン!」

「アオイちゃんいないと始まらないよー」

「そ、そっか! あはは。そうだよね! 楽しみだねー!」

「(……どうしたのかしら)」


 どこか様子のおかしい葵を見て、ツバサは閃いたとばかりに両手をぱんっと合わせる。


「やっぱりアタシはビキニかしら」


 ツバサの発言に、その場の全員がぎょっとして声を揃えた。お願いだからやめてくれと。


「え~なんでよ~」

「美人なツバサくんでも、流石にモザイクかかっちゃうよ!」

「えーひどおーい」

「お前さんには立派なもんがついてるだろー」

「あら? 菊ちゃんいたの」

「オレが連れてくんだからな。オレだって気色悪いもん見たくねーよ」

「まあ失礼しちゃうっ」


 そんなこんなで、なんとかツバサのビキニは阻止できそうだが……。


「いや~、ついに来たね! 俺の時代!」


 と、喜んでいるカナデは、全力でスルーしておいた。
 雑な扱いに、カナデはひとり部屋の隅で泣いていたけれど。


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