すべてはあの花のために②
十八章 幕開け

ぽっ……


 そして、葵の自業自得により始まった送り迎えと監視は、何事もなく順調に進んでいった。今日の帰りはチカゼ、オウリ、ヒナタの三人に送ってもらっている。


「(やっぱり同じ学年なだけあって、仲良いんだなー)」


 ヒナタと葵が並んで歩いてる中、チカゼとオウリが少し前を歩く姿は、なんだか楽しそうで微笑ましい。


「涎垂れてる」


 おっと。最近また口元が緩くなってるようだ。気をつけねば。
 口元をグイグイ裾で拭くと、ヒナタが葵の顔を覗く。


「ん? どうしたのヒナタくん」

「そんなにあいつら好きなの」


 いきなり何を?


「うん。好きだけど?」


 可愛すぎて、15cmぐらいにして持って帰りたいくらいです。


「ふーん」


 って、興味ないんかいっ!
 そんなことを話していると、襲われたところの路地にさしかかる。


「まだ痛いの」


 今度は視線を、男たちが倒れていたはずの方へ向けながら聞いてくる。
 けれどなんだか、そんなことを話している彼の横顔の方が苦しそうだった。


「ヒナタくんはどこか痛いの……?」


 そう聞くとバカにされた。


「あんたの怪我がまだ痛いのかって聞いただけなんだけど」

「うん。そうなんだろうけど、なんだかわたしよりも痛そうな顔してたから……」


 ヒナタにそう言うと、怪訝な顔をされてしまった。


「……そんなの」

「え? 何?」


 あまりにも小さい彼の呟きは、上手く聞き取れなかった。
 そうこうしていると、前にいたはずの二人がこちらに駆け寄ってきて。


「どうした? なんかあったか?」

「??」


 と心配そうな顔をしたので、「怪我がね? 痛くないかって聞かれてた」とだけ答えておいた。
 そう答えた時のヒナタの顔はいつも通りだったが、握り拳が少しだけ、震えているような気がした。


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