すべてはあの花のために②

sideトーマ


 人工呼吸と心臓マッサージを繰り返しようやく、飲み込んだ水を吐き出した彼女から反応が返ってくる。


「葵ちゃん! 葵ちゃんわかる!?」

「…………へんたい、ふらぐ……」

「いや、フラグ立ってるかもしれないだけど、シリアスに持ってこないで」

「……と。ま、さん……」

「ん。意識が戻ってよかった」


 取り敢えずトーマは、その足で旅館へと戻る。最初こそ驚いていたものの、旅館の人たちはその後甲斐甲斐しく彼女の世話をしてくれた。
 旅館の人と入れ違いに中へ入っていって、静かに眠る彼女の側に座る。


「無理はしないでって、言った矢先にこれだもんな」


 小さくため息を吐くと、彼女から小さな声が聞こえる。


「うん?」

「……あきら、くんは……」

「大丈夫だと思うよ」


 素直に「今のところは」と付け加えると、彼女は申し訳なさそうな顔をしながら、また静かに眠りについた。

 部屋を出ると、そこは葬式のように静まりかえっていた。


「お前らいい加減にしろよ。明日何があるんだよ。パーティーするんだろ。心配なのはわかるけど、それよりもちゃんとあいつと話した方がいいんじゃないのか」


 計画したのはキサだという。あいつなら「それは大変だ!」と中止しそうなところだが、それを今眠っている彼女は願ってはいない。

 俺の言葉に大きく頷いたオウリが、スマホに文字を打っていく。


〈とりあえずさ キサちゃんに話しに行こ? 旅館に帰ったら みんなで明日のこと決めよ?〉


 自分の言葉よりも幾分かやわらかくなった文字に、みんなは小さく頷いた。……一人を除いて。


「それじゃ、俺が菊ちょっと借りてくるから、その間に話せよ」


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