すべてはあの花のために②
痛たたたたたたあッ!!
目を覚ますと、そこは旅館の一室だった。
「あれ。わたし、どうやってここまで……」
言いかけたところでトーマに助けてもらったことを思い出した葵は、すぐに頭を切り替える。
「……さっきのアキラくん、明らかに態度がおかしかった」
いつからだっけか。確か……そう。『 』と言ってから。それから、拒むように右手を払われて……。
「あっちゃん。大丈夫……?」
そこまでの整理が終わると、控えめなノック音とともにキサがひょっこり顔を出す。
「うんっ、大丈夫だよ! もうピンピン!」
「無理しないでね。崖から海に落ちたんだもん」
「ありがとう。気をつけるね」
「……何があったのかは、教えてくれない?」
不安そうな彼女に、少し悩んでからにっこり笑顔で答える。
「今は、わたしの中でも整理がちょっとできてないから、それができ次第必ず言うよ。絶対!」
「あっちゃん、一人で何とかしようとしてるでしょ」
「キサちゃん?」
「少しは頼って? あたしは、あっちゃんに救われた一人なんだから」
「うんっ。その時は是非! ……心配してくれて、本当にありがとうっ」
二人して静かに笑い合う。葵は本当に心強いなと、心から思った。
「それでね、明日のことなんだけど……」
「おおそうだった! わたしまだプレゼント買ってないんだ。アキラくんもプレゼント買えてないから、誘って二人で買いに行ってくるよ!」
「……わかった。じゃあ明日は予定通りにね! あ、そうだ! ついでにしっかり観光してきなよ。バーベキューの準備しておくからさ!」
「ありがとう! あんまり遅くならないよう帰ってくるね!」
「うん! じゃあ、みんなのとこ行こっか」
部屋を出て一番に、オウリとアカネに抱きつかれた。よっぽど心配してくれたのだろう。
「あらアンタ生きてたの」「よかったね帰って来られて」なんて素っ気なく言う九条兄弟も、どこかほっとしているようだった。
「おい! 大丈夫なのか!」「アオイちゃーん!」ってチカゼとカナデが肩を揺らしながら聞いてくる。
でも彼は、何も言わずじっとこちらを見ている。見ているようで、きちんと目は合わなかった。
「あーきーらーくんっ」
一度では反応が返ってこなくて、彼の目の前で――ぱんっ! と両手を鳴らす。
「アキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくんアキラくーん!」
「……いや普通に怖い」
「呼んで!」
「?」
「わたしの名前!」
「! ……っ。あおい?」
「うんっ。そうだよ!」
状況を飲み込めたオウリとツバサは、静かに顔を顰めていた。
「ねえアキラくん。今から観光に行かない? わたしたち行けてないからさ」
「……ああそうだな。行くか」
「うんっ。それじゃあ行ってくるね!」
みんなに手を振って笑顔で歩き出そうとすると、二人の真剣な目と目が合う。
「(大丈夫。任せといて)」
そんな意思を込めて見つめ返した。