すべてはあの花のために②

あれはあなたへの警告も兼ねていたので


 アキが小5になったばかりの時――。


「次の跡取りはーーーで決定だろう。……にしても」

「今の当主、ありゃ病気だ」


 アキがおかしくなる前、皇の中はいつも慌ただしかった。何故なら。


「奥方様は秋蘭様を庇われて重傷とのことです」


 皇に恨みがあった犯行。
 アキを誘拐しようとしたのか定かではないが、一緒にいた奥様がアキを庇って病院に運び込まれた。……それからだ。雇い主がおかしくなったのは。毎日奥様の名前を泣き叫び、仕事なんか手につかなくなった。

 仲が良かったんだ。本当に。こいつらの家族は端から見てても微笑ましかった。
 けれどこの事件がきっかけで、皇の中は大騒ぎ。代理が旦那様の仕事をしていたが、中ではこれからの跡継ぎについてよく話すようになった。

 その候補が挙がったのが『そいつ』だ。お嬢ちゃんも言っていたように、アキの大好きだった奴。
 何でもそつなくこなす奴は、中学に上がるまでにはすでに帝王学を学び終えていた。
 俺はそいつの執事でもあったから。そいつのこともよく知ってた。でも次期当主を決める際、ある奴がこんなことを言い始めた。


『また、同じことを繰り返してしまうんじゃないか』


 それは仕事が手につかないくらい暴走してしまっている旦那様を指していた。外聞を最優先して気にする皇の奴らは、何としても今の地位を維持させたかったんだ。今でこそトップクラスの常連、でも皇は這い上がってきて、ようやくそれを手に入れたばかりだった。
 地位ばかりを見ている奴は、こんなことも言ってやがった。


『皇の頭に、はて感情はいるのか』


 それがきっかけで、弱心者の記憶を消すという結論に至った。今思えば馬鹿げた結論だ。
 他にやり方があっただろう。止める方法もあっただろう。でも俺には、どうすることもできなかった。


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