すべてはあの花のために②

sideシント


「……シン兄……」

「ん?」

「ありがとう」

「どういたしまして。でも俺だけじゃなくて、ちゃんと心配してくれたみんなにも、ちゃんとお礼言っとくんだぞ」

「む。わかってる」

「ははっ。それでこそ俺の自慢の弟だ」

「そういえばシン兄」

「お? なんだ?」


 じっと瞳を見つめ返してくるから、一体何のことかと思えば。


「『大好き』って、どういうこと」

「は?」

「ねえどういうこと。葵のこと好きなの」

「……アキ。一体何言っ――」

「好きなんだ。へー。だから車の中であんなにイチャイチャしてたんだ。へー」

「おおおおお前ッ! あの時ぼうっとしてたんじゃないの?!」

「葵のことは別だから」

「嘘つけ。一回忘れてるくせに」

「もう忘れない。絶対」


 弟は、おでこに貼ってある湿布を押さえつける。目元にやさしい弧を描きながら。


「それで、本当に好きなの。まあじゃないと、襲いかかったりしないか」

「ばっちり見てんじゃん……!」

「好きなんでしょ?」

「……だったら? 俺はなかなか重いよ? なんせ一目惚れだからね」

「犯罪だな」

「よっぽど大1で小6に手出す方が犯罪だろ!」

「職務怠慢」

「――ッ。そこを突かれるとなんとも……」

「主人に手を出すとか、最低以外の何物でもない」

「(※事実なので何も言えない)」

「でも、時間は関係ない」

「アキ?」

「俺のも十分重いってこと」


 弟はふっと不敵に笑った。


「シン兄にはやらないよ」

「あいつ、物じゃないんだけど」

「さっき、俺のものとか言ってたのはどこの誰だっけ」

「……ねえ。なんで会話聞こえてんの?」

「地獄耳だから?」

「そ、そう……」

「ちなみに俺も、会ったその日に一目惚れしたから」

「お前もか」

「流石は兄弟?」

「ははっ。……だな」


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