すべてはあの花のために②
sideヒナタ
葵の指示通りに準備を進めていたヒナタは、今一度時計を確認する。大体の人数は揃ったが、予定通り打ち合わせは時間になってから進めることにした。
そして時刻は17時25分。メールが小さく通知を知らせる。葵からだ。
〈今視聴覚室の外にいるよ!
一応何度も確認したんだけど
ヒナタくんにもお願いしたくて!
一旦廊下に出られるかな?〉
「(……嘘でしょ。口頭で説明する気満々だったんだけど)」
猛スピードで作成したのだろう。そうでなければ端折ったか。あの膨大な資料を、こんな短時間で作れるわけがない。
〈わかった
すぐ出る〉
最低限必要なことが書かれていれば、少々抜けがあったところで仕事に支障はない。大凡覚えている自分が、それを確認できれば十分だろう。
少しだけ席を外すことを業者の人たちに伝えたら、何故か思う存分出してこいと言われた。
「(便所じゃねえから)」
ため息を吐きながらヒナタが廊下に出ると、顔色の悪い葵が壁へもたれかかるように座っていた。
「え。だ、大丈夫?」
「あ……ヒナタくん。うん、大丈夫。ちょっと、頑張りすぎた、だけ……」
脂汗もかいているようで、前髪にべっとりと貼り付いている。ヒナタはハンカチでそれを拭ってやりながら、葵が持っている資料へ視線を落とした。
「……取り敢えず確認、だっけ」
「うん。何回も確認したから、多分大丈夫だとは思うけど……」
「(いや、こんな短時間に何度も確認できるわけが……)」
そう思いながらも時間は刻一刻と迫っていたヒナタは急いで資料に目を通していく。