すべてはあの花のために③
やっぱりあんたはバカだったのか!
一度車を止めて話していたので、結局彼の家に着くのは一時間くらいかかってしまった。
「こんなに遠くから通ってるんですか?」
「いやいやまさか。あいつは、あんなことがあったから一人暮らししとるんや。ま、一回も帰ってきたことないけどな。それで、余計心配なんやで親父は」
なるほど……と思いながら車を降りると、そこにはおそろ恐ろしい雰囲気の日本家屋の平屋があった。
その門のところに【五十嵐組】と書かれた威厳溢れる表札が掛けられていた。
「『東條』は母方の方の名字やねん。蒸発したゆうてもあいつ自身は別に何とも思うとらんかったし、それより『五十嵐』の方を隠した方がええと思うたらしい。親父はそれでまずはあいつを守っとんねん」
「こっちやでー」そう言って彼が葵を屋敷の中へ案内する。
「…………」
葵は彼がそう言うまでずっと、近寄りがたい表札を見続けていた。
彼が家の中へ通してくれたが、屋敷の中は静まりかえっていて、男衆だらけと聞いていたのにそれが不気味だった。そして、ある部屋に着くまでは、誰とも擦れ違うことはなかった。