すべてはあの花のために③

やっぱりあんたはバカだったのか!


 一度車を止めて話していたので、結局彼の家に着くのは一時間くらいかかってしまった。


「こんなに遠くから通ってるんですか?」

「いやいやまさか。あいつは、あんなことがあったから一人暮らししとるんや。ま、一回も帰ってきたことないけどな。それで、余計心配なんやで親父は」


 なるほど……と思いながら車を降りると、そこにはおそろ恐ろしい雰囲気の日本家屋の平屋があった。
 その門のところに【五十嵐(いがらし)組】と書かれた威厳溢れる表札が掛けられていた。


「『東條』は母方の方の名字やねん。蒸発したゆうてもあいつ自身は別に何とも思うとらんかったし、それより『五十嵐』の方を隠した方がええと思うたらしい。親父はそれでまずはあいつを守っとんねん」


「こっちやでー」そう言って彼が葵を屋敷の中へ案内する。


「…………」


 葵は彼がそう言うまでずっと、近寄りがたい表札を見続けていた。

 彼が家の中へ通してくれたが、屋敷の中は静まりかえっていて、男衆だらけと聞いていたのにそれが不気味だった。そして、ある部屋に着くまでは、誰とも擦れ違うことはなかった。


< 185 / 347 >

この作品をシェア

pagetop