すべてはあの花のために③

sideシオン


 後ろで、仲間たちがあの女に飛びかかっていく音が聞こえた。


「(……はっ。あの女ほんとバカなんじゃないの? マサキがやられたって言ってたのは精々6人程度。それに比べてこっちは30人近くいるし、6人ですでに半殺したって言うじゃん? まあ向こうが少し上手だったみたいだけど。それでも15分? わざわざ自分の寿命早めるとかマジでバカとしか言いようが――)」


 カナデの父――シオンは、そんなことを思いながら高みの見物でもしようと、さっきまで立っていた入り口の方へゆっくりと体を向けた。


「もうっ! 何勝手に座ろうとしてんだバカ親父!」


 しかし、振り返った目の前に、変な用件を言ってきたクソ女が立っていた。

 目の錯覚だと、思った。
 いや、思いたかっただけかもしれない。どうしてか? そんなの、あのクソ女の後ろに、屍のように床に転がっている仲間がいるからだ。

 入り口の戸から一歩も動いていないマサキも、信じられないようなものを見た目で固まっている。


「ちょっとバカ親父。次はあなたの番なのに、どうしてそんなところにいるんですか。やっぱりバカなんですか」


 そんなことを言うクソ女を見る。本当に戦ったのか?
 ゆっくり高みの見物をするつもりだったのに。

 そんな視線を向けると、マサキはコクコクと人形のように何度も頷く。
 確かによく見てみると、目の前のクソ女の服は少し乱れていた。刃物も使ったのか、頬と肩口には切り傷もついている。


「(それでもこのクソ女、一つも息切らしてねえ)」


 全然肩も上下してやいないし、ましてやさっきまで見ていた女の【瞳】が、まるで違っていたのだ。


「(やっぱり、こんな恐ろしい女、あいつをまた苦しめるだけだ)」


< 192 / 347 >

この作品をシェア

pagetop