すべてはあの花のために③
sideシオン
後ろで、仲間たちがあの女に飛びかかっていく音が聞こえた。
「(……はっ。あの女ほんとバカなんじゃないの? マサキがやられたって言ってたのは精々6人程度。それに比べてこっちは30人近くいるし、6人ですでに半殺したって言うじゃん? まあ向こうが少し上手だったみたいだけど。それでも15分? わざわざ自分の寿命早めるとかマジでバカとしか言いようが――)」
カナデの父――シオンは、そんなことを思いながら高みの見物でもしようと、さっきまで立っていた入り口の方へゆっくりと体を向けた。
「もうっ! 何勝手に座ろうとしてんだバカ親父!」
しかし、振り返った目の前に、変な用件を言ってきたクソ女が立っていた。
目の錯覚だと、思った。
いや、思いたかっただけかもしれない。どうしてか? そんなの、あのクソ女の後ろに、屍のように床に転がっている仲間がいるからだ。
入り口の戸から一歩も動いていないマサキも、信じられないようなものを見た目で固まっている。
「ちょっとバカ親父。次はあなたの番なのに、どうしてそんなところにいるんですか。やっぱりバカなんですか」
そんなことを言うクソ女を見る。本当に戦ったのか?
ゆっくり高みの見物をするつもりだったのに。
そんな視線を向けると、マサキはコクコクと人形のように何度も頷く。
確かによく見てみると、目の前のクソ女の服は少し乱れていた。刃物も使ったのか、頬と肩口には切り傷もついている。
「(それでもこのクソ女、一つも息切らしてねえ)」
全然肩も上下してやいないし、ましてやさっきまで見ていた女の【瞳】が、まるで違っていたのだ。
「(やっぱり、こんな恐ろしい女、あいつをまた苦しめるだけだ)」