すべてはあの花のために③
sideシオン
「(……おいおい嘘だろ……)」
シオンは、目の前に起こっている出来事を俄には信じられないでいた。
最初は馬鹿にして見ていたが、その迷いがない葵の目と、腕の動きに負けを確信していたからだ。
「(全部、覚えたのか。あの一瞬で?)」
彼女は半分どころか、全てのカードをペアにして引っ繰り返したのだから。
本当にあっという間だった。一つも迷わなかった。違うカードに、触れもしなかった。
それはもう、そこに何があるのかを最初っから知っているかのような動きに、冷や汗が背中を伝う。
「はいっ、とー。こんなものですかね。全部引っ繰り返してやりましたよ? ……それで? 賭はわたしの勝ちなので用件、呑んでくれますよね? あー! もしかして、大バカ親父は約束も守れないような最低親父なんでしょうかねえ?」
完璧にこれはシオンの負けなので、何も言わずに彼は、ただ唇を悔しそうに噛み締めていた。
「……馬鹿にするのも大概にしろよクソ女」
「どんな威嚇をされようとも、どんな姑息な手を使われようとも、わたしはあなたに負けない自信がありますので? さっさと座布団でも飲み物でももってこいや男共!」
つい今し方コテンパンにされた奴らは、猛ダッシュで言いつけ通り、座布団とコーヒーをその場の全員分準備してくれた。