すべてはあの花のために③

美人だと思ったら


 日付が変わり、空気が変わる。


「……親父」


 カナデが真っ直ぐシオンを見据える。
 何か仕掛けてくるようなら、彼は身を挺して葵を守るだろう。


「……はあ。やめやめ」


 シオンはそう言って立ち上がる。


「あんたの名前、なんて言うんだっけ」

「え? あ、『あおい』です」

「アオイちゃん悪かったな。クソ女呼ばわりして」

「わたしもバカ親父って言ってましたし、お互い様かと」


 シオンは「そうだね」と笑いながら言って、葵の方へ歩いてくる。カナデは葵を守ろうと動くが、アキラに止められていた。


「……どうしてアオイちゃんは、賭に『自分を殺すな』とは言わなかった」

「わたしの命よりも、優先すべきことだと思ったからです」


 葵は真っ直ぐに親父を見つめてそう言う。


「それなら、俺がここであんたを殺しても文句は言わないよな?」


 カナデが「クソ親父!」って叫んでる。
 アキラにツバサも加わって、彼を抑えていた。


「別にいいですけど、その前にわたしがあなたを殺しますよ」


 葵がそう言うと、今度は組の人たちが動き出す。
 そんな葵にシオンはすっと手を上げ組の奴らを止めた後、大爆笑しはじめた。


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