すべてはあの花のために③

や。やっぱりストーカーでいらっしゃる


 アキラに囁かれた左耳を押さえながら、ズルズルと座り込む。その顔は少し赤くなっていた。


「(まさかのモテ期襲来……)」


 そんなこと思ってたの――!? と突っ込まれても致し方ないが……葵は、そのあと膝を抱えて座り込み、俯いていた。


「(……ああ。ダメだ。苦しい。しんどいよお……)」


 葵は、声を出してしまわないように泣いた。


「(だめ。なんだよ。わたしはっ。……みんなをしあわせに。なんて。でき。ない……)」


 たとえ好きになってもらったとしても、葵の気持ちは決まってる。
 もう、葵の時間は少ないのだから。

 好きという気持ちの、本当の感情を知ってしまった葵はただただ苦しくて、必死に涙を堪えていた。


「(こんなことならっ。恋なんてしない方が。相手が苦しくっ、ないじゃないか……)」


 やっぱり自分は変われないのかもしれない。

 そう、諦めていた時だった。浴衣に入れていたスマホが鳴ったのは。


「(……ずずっ)だれ。だろう……」


 画面に出てきているのは、全く知らない番号だった。
 どしようかと思ったけど、何故か……取ってみようと。そう思って、画面をタッチし耳に近づける。


「……も、もしもし……?」

『もしもし。昨晩はありがとうございました』

「えっと……?」

『あ……そうか。わからないですよね』

「……?」

『私です。昨日のあなたのドレス姿は、非常に美しかった』

「――! か。怪盗、さん……?」


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