すべてはあの花のために③

冗談は止めてくださいな


 ――――スパンっ。
 開けたが、また閉めた。

 うん。違う。気のせい気のせい。
 そう思って葵は部屋を間違えたんだと思ってまた歩き出そうとしたけど。


「うわあっ⁉︎」


 閉めたはずの戸が開かれて、そこから伸びてきた手に浴衣の襟を掴まれて引き摺り込まれる。


「アオイちゃん、どこ行ってたの?」

「えーっと。お、おはようございますシオンさん……」


 何故戸を閉めたのかというと、彼が葵の布団の中で待っていたからである。
 彼はそう言いながら、また葵を自分の膝の上に乗せて、腰に腕を回してくる。


「うんおはよう。それで? いつの間に布団から抜け出したの? 俺がいなくて寂しかった?」

「そ、そういうわけでは……」


 一応捜し人はあなただったんですけど……とは言わないでおこう。


「嘘言わないの。さっきまで一緒に布団に入って温めてあげてたのに」

「えっ? そうだったんですか⁉︎ それはすみませんでした! 心配かけてごめんなさい! それと、温めてもらってありがとうございました!」


 葵が純粋にお礼を言ってきたので、シオンは固まってしまった。


「……アオイちゃんは、冗談が通じないんだね」

「へ? 冗談?」


 首を傾げる葵に、彼は苦笑いするしかしなかった。


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