すべてはあの花のために③
それでは、満を持して
葵は、マサキが去って行く車を、見えなくなるまで見続けていた。
「(そういう台詞言えちゃうのはやっぱり、大人の余裕というやつなのだろうか)」
見えなくなったあと、葵は腕を組んでそんなことを考えていた。まわりのみんなはどうしたのかと、葵の様子を窺っている。
「(……やっぱりいる。視線は恐らく二つか)」
マサキに言われ、葵は自然に見えるようそれとなく集中していた。
「(殺気はしない。嫌な感じはあるけど、様子を窺っているだけみたいな……)」
取り敢えず気をつけておけばいいかと、葵はパンと自分の頬を叩く。
「うわ! ビックリした!」
そして目を開けた目の前には、何故かカナデとアキラが。至近距離で葵のことを見ていた。
「アオイちゃん、マサキが好きなの」
「どうなんだ葵」
しかもなんか変な誤解をしてるし。まわりのみんなはというと、『早くしろよ。これからまだ行くところあるんだろうが』とため息。
「カナデくん。アキラくん」
「何?」
「なんだ」
彼らはムスッとした顔のまま。でも返事はしてくれた。
「これからどこへ行くんですか」
「元カノのとこ」
「先生のとこ」
淡々と答える二人。わかっているなら聞くなよと、葵もため息をついた。
「早く一旦帰ろうよ。こうしているうちに、どんどん遅くなっちゃうよ」
「それなら今何考えてたの」
「じっと車が見えなくなるまで」
「……じゃあ答えたら一旦帰る?」
「うん」
「もちろんだ」
葵は一度みんなの方を振り返る。どうやらみんなもめんどくさがっているようだ。若干キサからは、大変だね~って気持ちも伝わってくる。
「(ですよね~。みんなも早く一旦帰りたいよねー)」
葵は二人をもう一度見つめた。
二人はじっと葵の言葉を待っている。
「それでは、満を持して言わせていただきます」
葵は思いっきり息を吸い込んだ。