すべてはあの花のために③

それでは、満を持して


 葵は、マサキが去って行く車を、見えなくなるまで見続けていた。


「(そういう台詞言えちゃうのはやっぱり、大人の余裕というやつなのだろうか)」


 見えなくなったあと、葵は腕を組んでそんなことを考えていた。まわりのみんなはどうしたのかと、葵の様子を窺っている。


「(……やっぱりいる。視線は恐らく二つか)」


 マサキに言われ、葵は自然に見えるようそれとなく集中していた。


「(殺気はしない。嫌な感じはあるけど、様子を窺っているだけみたいな……)」


 取り敢えず気をつけておけばいいかと、葵はパンと自分の頬を叩く。


「うわ! ビックリした!」


 そして目を開けた目の前には、何故かカナデとアキラが。至近距離で葵のことを見ていた。


「アオイちゃん、マサキが好きなの」

「どうなんだ葵」


 しかもなんか変な誤解をしてるし。まわりのみんなはというと、『早くしろよ。これからまだ行くところあるんだろうが』とため息。


「カナデくん。アキラくん」

「何?」

「なんだ」


 彼らはムスッとした顔のまま。でも返事はしてくれた。


「これからどこへ行くんですか」

「元カノのとこ」

「先生のとこ」


 淡々と答える二人。わかっているなら聞くなよと、葵もため息をついた。


「早く一旦帰ろうよ。こうしているうちに、どんどん遅くなっちゃうよ」

「それなら今何考えてたの」

「じっと車が見えなくなるまで」

「……じゃあ答えたら一旦帰る?」

「うん」

「もちろんだ」


 葵は一度みんなの方を振り返る。どうやらみんなもめんどくさがっているようだ。若干キサからは、大変だね~って気持ちも伝わってくる。


「(ですよね~。みんなも早く一旦帰りたいよねー)」


 葵は二人をもう一度見つめた。
 二人はじっと葵の言葉を待っている。


「それでは、満を持して言わせていただきます」


 葵は思いっきり息を吸い込んだ。


< 272 / 347 >

この作品をシェア

pagetop