すべてはあの花のために③
ただでさえそんなに高くない鼻が……
「はあっ。はあっ……っ。い、一体何だったんだ……?」
駅から猛ダッシュ、その後途中で歩くはずだった葵は、結局最後まで全力疾走。家まで帰ってきてしまったことに疑問を抱いていた。
「駅には嫌な感じがしたから走って距離を稼いだはずなのに……あとから視線が二つと、そのあとから三つ? そんな大人数に追いかけられるようなこと、わたししたっけ……?」
どうやら、必死に追いかけていたアキラとカナデ、それから陰でこっそり追いかけようとしていたツバサ、アカネ、オウリの視線は、葵に間違ったように捉えられてしまったようだ。
その五人はというと、結局葵に追いつくこともできなかったので、落ち込んだ様子で帰って行きました。残念。
まあそんなこととは露知らず。葵は屋敷に入り、ひとまず自分の部屋へと向かう。
「(シントには一応連絡は入れておいた。きっと出迎えられないんだろう。仕事中……か)」
葵はそう思いながら、自分の部屋の扉を開けた。
「出られたあ~」
「――⁉︎」
何故か葵のベッドの上で待機しているシントと遭遇。いや、あなた仕事はどうしたのさ。
「いや~前巻で俺、結構みんなに酷いこと言っちゃったからさー? もう出してもらえないかと冷や冷やしてたんだよー」
そう言いながら掛け布団を捲り、こっちに来るように指をクイクイと曲げているシント。
面倒くさくなりそうだったので、葵はすぐに扉を閉めた。
「よし。ここはキサちゃんの家にでも行って、時間まで女子トークでもしようかな!」
そうして駆け出そうとしたけれど。