すべてはあの花のために③
月に代わってお仕置きして来るっ!
時刻は12時半。無事にシャワーを浴びた葵は、何とか赤い花を隠した。しかしきちんとできているか危うかったため、薄手のスヌードを付けていくことに。
「ではシント。行ってまいります」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
葵はスヌードを引っ張りながら、シントの目をじっと見つめる。
「もしかすると、キサちゃんの家に泊まるかもしれません。それはあなた次第なので、わたしはちゃんと家に帰られることを願ってます」
(訳:さっきのことわたしは怒ってるんだからな?! 帰ってあんなことするようだったらマジで解雇すんぞ。家に帰ってこないぞ)
「……大丈夫ですお嬢様。きちんと仕事は熟しておきますので、お早めにお帰りくださいませ」
(訳:だから悪かったって! なるべく暴走しないようにする! 仕事もするから! お願いだから帰ってきてえ~!)
実は会話には、そんな意味も込められていたり。
「まあいいでしょう。また帰りは連絡します。それでは行ってきますね」
「はい。お早いお帰りをお待ちしております」
シントは深く礼をして、葵の姿が見えなくなるまで見送っていた。
「(……隣町、か……)」
小さく呟いたシントは、屋敷の中へと戻っていった。
駅に着くと、15分前なのにみんなが揃っていた。
「あれ? キサちゃん、わたし時間間違えた?」
「ううん? ばっちりだから気にしないでー」
「それじゃあ行きましょうかねー」と、何故かキサは楽しそう。他のみんなは、いろんな表情だった。難しい顔だったり、悔しそうだったり、眠そうだったり。
葵は首を傾げたけれど、きっとさっきの言い逃げのことだろうと、何も聞かずにそのままバスへ。
隣町とは、南区百合ヶ丘の少し先。
そこにどうやら、カナデの彼女さんだった方がいるらしい。
「(案外近くて、逆に会わなかったのが不思議なくらいだ)」
そして、先生の病院は百合ヶ丘。つまり南区にある。
「(……何事も、なければいいんだけど)」
桜ヶ丘には特に気にしない人柄の人が多いが、あまり他校の生徒がその地区を彷徨くのは、治安の関係上よろしくないと言われている。加えて葵たちは桜の生徒会。治安問題に巻き込まれたら、余計不味いことになりかねなかった。