すべてはあの花のために③
録画するの忘れてたっ!
その後百合ヶ丘まで帰ってきた葵たちは、早歩きで病院へと向かった。
百合ヶ丘総合病院――ここに、カナデの元担任の先生が入院しているというので、早速病室へと向かう。
その時あのオウリに落ち着きがなく気にはなったが、まずは長居をしないことが優先。何があったのか後で聞いてみることにした。
〈1003号室 雨宮 梢〉
「ね、ねえあっちゃん」
「う、うん。なにキサちゃん」
キサは、葵の袖の服を思い切り握り締めている。
「な、なんかさ、話し声……聞こえない?」
病室からは、誰かの話し声が聞こえた。しかもとても楽しそうな笑い声だ。
葵たちは、みんなで目を合わせた後、控えめにノックをすると、線の細いやわらかな女性の声が聞こえた。それに葵以外のみんなは、目を見開いている。
もしかしてこの声――――扉の取っ手を持っているカナデも一瞬固まってしまっていたが、一度目を閉じ思い切って扉を開けた。
「あ、みんな。いらっしゃい」
「今朝振りだね、アオイちゃん」
その部屋にいたのは、リクライニングベッドに姿勢よく座っている黒髪でショートヘアの女性と、……何故かカナデ父――シオン。
確かに、謝りに行きましょうねって言ったけど!
「お、親父? 何してんの」
「そんなの、先生にお詫びとお礼と、あと雑談しに来たに決まってるじゃん」
「ですよねー?」「そうですねー」と、仲良さげな二人。
「は、初めまして雨宮先生。わたしはカナデくんたちの友達の『あおい』と申します」
「あらあらご丁寧にどーもー」
何故だろう。今まで喋ってなかったから?
無駄にテンションが高い気がするのは。
「あ、あの。体調等差し支えがなければ、何が起こっているのか、教えていただいても構いませんか?」
葵の言葉にみんなが大きく頷く。
その様子に「変わってないわね~」と先生は笑っていた。
「はいはーい。体調も大丈夫だから、最初から話しましょうか」
そうして彼女が話すのは、まるで奇跡のような話。