すべてはあの花のために③
二十四章 ノイズ
隠すのが当たり前のようになってる
それから、葵は日の出とともに目を開けた。動いたのがわかったのか、隣のオウリもゆっくりと目蓋を上げる。
壁を背に並んで眠っていたはずが、どうやらずっとオウリにもたれ掛かっていたようで。「お、重かったでしょ。ごめんね」と葵は平謝り。けれどなんだかご機嫌なオウリはすごく嬉しそうに首を振っていた。気にするなと言いたいのかと思い、今度は「ありがとう」と伝えておいた。
その後みんなが起き上がったので、心配を掛けてしまったことへ「ごめんね」と「傍にいてくれてありがとうっ」をたくさん伝えた。葵の言葉にみんな嬉しそうに笑ってくれた。
朝が早く今は5時台。けれど、始発のバスに乗らないと学校に間に合わないため、大急ぎで病室を後にする。
「道明寺さん」
一番最後に出ようとした葵は、先生に呼び止められた。
「また何かあれば、ここに連絡しなさい。私が力になれることがあるかもしれないから」
そう言って先生が手渡してくれたのは、電話番号やアドレス、住所まで記入してあったメモ用紙。
「退院出来次第そこへ住むことになってるから。何もないのが一番だけど、もし何かあれば手を貸すわ」
葵を気遣って、先生はふわりと笑ってくれた。
葵は何も言わなかった。ただ、小さく頷いた。
「それじゃ、またね。あおいちゃん」
「……! ……はい。さようならっ、先生」
そうして一礼をした葵は、今度こそ病室を後にした。
その時、彼女の目が鋭くなっていたことには気づかずに。
葵たちが出て行った病室。
「……申し訳ないけれど」
そうして彼女もまた、スマートフォンを取り出した。ここの病室は、携帯機器を使用してもいいことになっていたのだが。
「ふふ。律儀な子だったわね」
彼女は、夜中にわざわざ病室を出て行った葵の姿を思い浮かべながら、パスワードを入力し画面を開く。そのあと、ある番号を出した。
相手は出なかった。すぐに留守番サービスに接続される。
「昨日預かった物、渡しておきました。中身を確認したら、千切って外に捨てちゃってましたけど。それと、……起こしていただいてありがとうございました。それでは、また何かありましたら。失礼致します」
留守録に残した後、スマホのボイスレコーダーのアプリを立ち上げる。
『……みんなを、どうか。よろしくお願いします……』
「……最初はやっぱり小さいわね。警戒されたし。でも、後半はこっちに来てくれたから、ちゃんと聞こえてるわね」
彼女は、それをメールに添付しあるアドレスへと送る。
「ったく、一応こっちは病人だっていうのに、扱いが雑すぎ! ……はあ。悪くは思わないでね。道明寺さん」
彼女は画面に表示された〈送信完了〉を確認してから、体を横にし、再び眠りについた。