すべてはあの花のために③

一本丸々見てしまった!


 2-Sの教室に行くと、アカネがもう来ていた。


「あっ、あか、あかねっ、くん‼︎」

「おおお! 噛みすぎだからあおいチャン!」


「落ち着いてえ~」と言われたので、まずはゆっくり深呼吸をすることに。


「ふうー。……ごめんなさい。焦り過ぎちゃった」

「よかったあ。……おうりのこと、だよね」

「うん。……今日、学校に来るかな」


 葵の呟きに、アカネからはにこっと笑顔が返ってくる。思わずにこり返しをしようとしたが、スマホで何かを打ち始めた彼は、誰かにメッセージを送っていた。


「よし。それじゃあ行こうか、あおいチャンっ」


 そう言って彼は葵の手を取り、何故かSクラスを飛び出した。


「あ、アカネくんどこへ行くの?」


 最初はにっこり笑うだけだった彼は、だんだん楽しくなってきたのか「二人っきりになれるとこ~」と言われ、葵は一瞬身構える。


「あ~あおいチャン。今何想像したのお~?」

「アカネくんには、カナデくんみたいになって欲しくないなと思ってたとこ」

「だ、大丈夫だから! 何もしないから! 寧ろ何もしないでっ!」


 葵の真顔に、アカネの方が身の危険を感じる事態に。


「(もちろんだとも。癒やしの君に手を出すわけないじゃないか)」


 そんな意味を込めてにっこり笑ったんだけど、どうやら違う風に捉えられたみたい。彼の顔は、目的地に着くまで真っ青になっていた。


「……生徒会室?」

「あおいチャン、どこに連れて行かれると思ったの」


 至って普通のところに連れてこられた葵は完全に拍子抜け。何故かアカネは落ち込んでいるようだけど、まあそれは置いておきましょう。


「ここだったら鍵ついてるし、来たとしてもみんなかきくチャン先生だけだから。ゆっくり二人で話ができるかなって」

「そっか。きっとアカネくんだけしか知らないこともあるもんね!」


 葵が部屋に入ったのを確認して、彼は生徒会室の鍵をガチャリと閉めた。


「アカネくんは、飲み物何にするー?」

「あおいチャン」


 いつもより真剣みを帯びたその声に、お湯でも沸かそうと思っていた葵は、ひとまず持っていたケトルを置く。


「あおいチャンッ!」

「は、はいっ!?」


 するとアカネがいきなり距離を詰めてきて、目の前に。


「もうちょっと危機感を持ちなさあーいっ!」


 怒っていても、やっぱりなんだか可愛いかった。
 如何にも、ぷんぷんって語尾に付きそうで、クスッと笑いがもれる。


「大丈夫。ちゃんとわかってるよ。アカネくんのこと信じてるから安心してるんだけど、それじゃあダメかな?」

「それはそれで、男としては複雑なんだけどお……」


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