すべてはあの花のために③
sideアカネ
そんな葵をアカネは微笑みながら見つめ、彼女が持っていたコップをそっと取って机の上に置いてあげた。
「(あおいチャン、コップ取られたことにも気づいてない。……よかった。家から持ってきて)」
まるで子どものようにはしゃぐ葵が見られて、アカネはつい嬉しくなった。そして一本、また一本見終わるごとに、葵はオウリの話を聞きたがったが、そのタイミングでまた新しいアニメを流す。すると彼女の意識はそちらへ集中してしまい、気付けばあっという間にお昼になっていた。
「あかねぐ~ん。お昼になっちゃったよお~」
鞄ごとここへ来ていたので、そのままお昼を食べることに。
「あおいチャン、きくチャン先生には〈午後も休みまーす〉って言っておいたからね~」
するとすかさず「何言ってるんだー! 午後は絶対に出ないと――」と文句を言われそうになったので、また新しいアニメを流しておいた。
(※アカネは葵回避の術を会得した▼)
……そして実は、それが放課後まで続いたりするのだが。
「(流石にここまでしても何も思わないあおいチャンもすごいなあ)」
オウリを心配していたのは何も葵だけではない。みんなが心配していた。
「(今、おうりにはみんながついてる。あおいチャンにばかり頼っていられない。おれらもおうりを救いたい気持ちは一緒だから。みんな必死で、おうりを説得してるんだけど……)」
だからアカネは、それを葵に気づかれないよう、時間を稼いでいる。
「(これはみんなで決めたことなんだ、あおいチャン)」
カナデみたいに、少しでもオウリの手助けになってやろうと思った。
「(きくチャン先生からは〈心配してる〉ってメールが来てる。みんなからは……何もない、か)」
今まで踏み込まなかった時間が長い分、おうりも言い出しづらいのかもしれない。
「(やっぱり今回も、あおいチャンに手を貸してもらうようになっちゃうのかな)」
あんなオウリの姿を見るのは久し振りだ。初めて会った頃は、それこそ表情なんて動かなかったけど、何かにいつもビクビクしていて。
「(だからおうりは、おれの道場に来たんだもんね)」
そんなオウリを見かねたおじさんが、『しごいてくれ』なんて言ってくるもんだから、最初はどうしようかと思ったけれど。
「(でもおうりもちゃんと強くなった。今度は、心が強くならないとっ)」
アカネは強く、自分の手の平を握り締める。
すると、その手を包むように、ふわりと自分じゃない手が被さった。