すべてはあの花のために③

必死にアニメ見ちゃった


 その後、彼が葵の分のコーヒーも準備してくれた。


「あおいチャン早くっ」


 楽しそうに自分の隣のソファーをぽんぽん叩いている。


「(いやいや、さっきまでの時間稼ぎはどうした)」


 そう思いつつも、葵は楽しそうなアカネを見て小さく笑った後、彼の横に座った。
 そうしたら、彼が嬉しそうにくっついきながら「あおいチャンはー」と話し始める。


「もう気づいてるんでしょう?」

「え? 何が?」


 彼はスクリーンを指差した。


「おれがあおいチャンを足止めしてることー」

「うーん。まあなんかあるんだろうなとは思ってたけど」


 流石の葵でも気づく。
 でもはっきりとわかったのは、アカネが握り拳を作っていたから。


「(それまで必死にアニメ見ちゃったよ。あはは~)」


 ということは、アカネには言わないでおくことにする。


「あおいチャンがお家に帰った後、みんなはおれと一緒におうりを家まで送ったんだ」

「もしかして、みんながオウリくんについてあげてるのかな」

「うん。でも、あおいチャンが帰ったら、おうり走って帰っちゃって」


 彼はつらそうに眉を寄せて、そう話す。


「おれらも追いかけたんだけど、マンションオートロックかかって、エントランスから入れないんだ。……やっぱり心配だったから、おうりもかなチャンみたいに助けになってあげたくて。それで、みんなで今必死に声掛けてる……んだけど」


「今のところ何の連絡もなし」と、スマホの画面を突く彼の横顔は、とても寂しそうだった。


「きくチャン先生にも事情は話してる。最初からおれが学校に来たのは、あおいチャンにばっかり助けてもらってるから、おれらでできることはしようって決めたからで。……でもやっぱり、あおいチャンが必要みたい。今のおうりには」


 彼は葵に苦笑いする。


「無理して笑わないで? アカネくんも心配だったけど、わたしのことも心配してくれたんでしょう?」


 葵はアカネの手にそっと触れる。また、いつの間にか彼の手に力が入っていたから。


「でも、おれらは結局おうりの助けにはなってやれなくて」

「ううん。そんなことない。そんなことないよアカネくん」


 アカネは葵の顔を、ゆっくりと見た。


「わたしは今、すっごく嬉しいよ。みんながオウリくんに近づこうとしてるから」

「でも、会ってもくれないんだ。応えてくれないんだよ」


< 326 / 347 >

この作品をシェア

pagetop