すべてはあの花のために③
必死にアニメ見ちゃった
その後、彼が葵の分のコーヒーも準備してくれた。
「あおいチャン早くっ」
楽しそうに自分の隣のソファーをぽんぽん叩いている。
「(いやいや、さっきまでの時間稼ぎはどうした)」
そう思いつつも、葵は楽しそうなアカネを見て小さく笑った後、彼の横に座った。
そうしたら、彼が嬉しそうにくっついきながら「あおいチャンはー」と話し始める。
「もう気づいてるんでしょう?」
「え? 何が?」
彼はスクリーンを指差した。
「おれがあおいチャンを足止めしてることー」
「うーん。まあなんかあるんだろうなとは思ってたけど」
流石の葵でも気づく。
でもはっきりとわかったのは、アカネが握り拳を作っていたから。
「(それまで必死にアニメ見ちゃったよ。あはは~)」
ということは、アカネには言わないでおくことにする。
「あおいチャンがお家に帰った後、みんなはおれと一緒におうりを家まで送ったんだ」
「もしかして、みんながオウリくんについてあげてるのかな」
「うん。でも、あおいチャンが帰ったら、おうり走って帰っちゃって」
彼はつらそうに眉を寄せて、そう話す。
「おれらも追いかけたんだけど、マンションオートロックかかって、エントランスから入れないんだ。……やっぱり心配だったから、おうりもかなチャンみたいに助けになってあげたくて。それで、みんなで今必死に声掛けてる……んだけど」
「今のところ何の連絡もなし」と、スマホの画面を突く彼の横顔は、とても寂しそうだった。
「きくチャン先生にも事情は話してる。最初からおれが学校に来たのは、あおいチャンにばっかり助けてもらってるから、おれらでできることはしようって決めたからで。……でもやっぱり、あおいチャンが必要みたい。今のおうりには」
彼は葵に苦笑いする。
「無理して笑わないで? アカネくんも心配だったけど、わたしのことも心配してくれたんでしょう?」
葵はアカネの手にそっと触れる。また、いつの間にか彼の手に力が入っていたから。
「でも、おれらは結局おうりの助けにはなってやれなくて」
「ううん。そんなことない。そんなことないよアカネくん」
アカネは葵の顔を、ゆっくりと見た。
「わたしは今、すっごく嬉しいよ。みんながオウリくんに近づこうとしてるから」
「でも、会ってもくれないんだ。応えてくれないんだよ」