すべてはあの花のために③
sideアカネ
おうりのおじさんが、おうりを担いでいきなりウチの道場に来たんだ。『こいつのこと、扱いてやってくれ!』って。
ちなみに、おれの父さんが怪我をしたのもこの頃だった。
だから、おれはおじいちゃんに絶賛扱かれてて。
おれは、同年代の子っていなかったから、嬉しかった。
でもね、その頃のおうりは無表情だった。いつも何かにビクビクしてた。
何にそんなに怖がってるのかはわからなかったんだけど、取り敢えず連れてきたおじさんが怖かったんだと思う。いつもおうりのこと担いで連行してきたから。稽古が終わるまで、おうりのこと鬼のような形相で見てたから。
あれには正直、おれのおじいちゃんも怖がってたけどね。
だからおうりも、稽古せざるを得なかったんだと思うよ。
ただ、やっぱり強くなっても話せなかった。おじさんが担いできた時にはもう、おうりは話すことができなかったんだ。
でもね、そんなある日、疲れ果てておれもおうりも道場で昼寝してた時があるんだ。
……あおいチャンも聞いたことあるよね。おうりの声。
多分、自分では気づいてないんだと思う。普通に寝てる時は寝言なんて言ったりしないんだ。
でもね、ある時だけおうりは声が出せる。それが、魘されている時。
あおいチャンも聞いたよね。歓迎会のアンケートを集計してた時。
魘されてる時のおうりの声は、聞いたことあったでしょう? あの時は、一緒に隠してくれてありがとう。すごく助かったよ。