すべてはあの花のために③
あなた、ここで何をしていらっしゃるの
「(いやだ。……っ。いやだっ、いやだっ)」
葵は走った。とにかく走った。
「(だめ、なんだっ。それだけは、ぜったい……っ)」
ただ真っ直ぐに、迷わずに、ひたすらに。葵はある場所を目指して走る。途中でいろんな人に声を掛けられた。もしかしたら生徒会メンバーもいたかもしれない。
「(おねがいだっ。いて……っ!)」
葵は角を曲がって正面を見据える。
「(……っ、きさちゃん……!)」
ポイントに立っているはずの紀紗がおらず、恐らく参加者と思われる人たちで溢れかえっていた。
「(……落ち着け。落ち着け……)」
葵は得意の“仮面”を着け、手違いで参加者の方々に迷惑を掛けてしまったことを謝罪した。幸い参加者の方々はやさしい方ばかりで、後は生徒会室だけだったので、場所を詳しく教えてあげた。
「大変申し訳ないんですが、『シンデレラ』の恰好をした生徒をどこかで見かけませんでしたか?」
葵が尋ねると、「その人なら――」と、教えてくれる人が。
「その時、誰かと一緒だったとかわかりますか?」
「いや~そこまでは。人が多くて、仮装していないと一緒に歩いてるかどうかもわからないしね」
確かにその通りだ。葵はお礼を言ってから、彼らを見送った。
「(落ち着け。考えろ。考えろ……)」
葵は考えながら、生徒会メンバーの一人に無線を飛ばす。
「……あっ、聞こえてるかな? 今ちょっと手違いがあってみたいでシンデレラがいたポイントに誰もいないんだ。もうすぐ交代でしょう? その前に大急ぎでそこにはまって欲しいの! それとわたし今ちょっと生徒会室から出てるからそっちの方はオウリくんが代わる時相手に伝えてくれる? 多分たくさんの参加者が行くと思うから。それじゃよろしくね」
きっと彼なら一番最初にここへ駆けつけてくれるだろう。葵は早口で一気に用件を言ってから一目散に駆ける。
葵がたどり着いたのは音楽室。今は“写真館”と書かれている。
「(ここは確か、どこかのクラスがいろんな衣装を貸して、それを写真に撮ってあげるんだって言ってたっけ)」
葵は不思議に思いながらも、そこの教室の扉を開けた。