すべてはあの花のために③

side……


「いや~、それにしても、すごかったですねえー」


 その頃、仮面を着けた二人の男が、立ち入り禁止のはずの屋上から双眼鏡を覗いていた。その先には、今はもう笑顔の彼女の姿。
 それを眺めながら、一人の男が尋ねた。時間はどれほどかと。


「はいはい~、ちょっと待ってくださいねえ」


 そう言って一人の男は自分の腕時計を見る。


「彼女に話をしたのは15時半ぐらいでしたねえ。そして今は……なんと! 16時半になってないですよお!」


 ははっと、尋ねた一人の男が笑う。


「しかも一目散に迷わずあそこのポイントに行きましたからねえ。それは本当に驚きましたあ」


 猜疑の視線で、また男は問いかける。場所を教えたのではないかと。


「いえいえ。そんなことボクはしないですぅ。加えてその場所に着くのには5分足らず! すごいですねえ~」

 ――音楽室へは?

「そうですねえ。その10分後には着いてたんじゃないでしょーか」

 ――実質、障害物がなければもっと早かったか。

「そうですねえ。参加者に律儀に案内したり、謝罪と、あと情報を聞いてたせいで、ちょっと時間かかっちゃいましたかあ」

 ――けれど彼女にかかれば、情報を聞かなくても済んだのでは?

「そうでしょうが、あんまり無理(、、)をしたくはないのでしょう。だから、情報を聞いていたのではと」

 ――そう。にしても、先程の彼は何というか……。

「あー。あのオカマですねえ。ほんと、最初は女性だと思って丁重に扱おうと思ったのに、立派なものが付いてて驚きでした~」

 ――今でも信じられない。雪の女王がまさか男だったなんて。

「はは。やっぱりあなたもそう思いますう? ……それから、次に行くのも早かったですねえ。音楽室から出てきたのがその約10分後。出てきたシンデレラの表情を見る限り、彼女はボクのことは話さなかったみたいですねえ」

 ――にしては、少し時間がかかっていたみたいだけれど。

「またどうせ謝罪でもしてたんでしょう。それから……ここがすごかったですね! 一目散に講堂へ! これにはボクも驚きすぎて目ん玉落っこちるかと思いましたあ」

 ――本当に、場所は言ってはいないんだろうね。

「だから言ってないですよお。疑ってるんですか? ただ、『ちょっと消えてもらった』とは言いましたけどぉ」

 ――……ちょっと待って。それだけで?

「いやぁ。ほんと、頭が切れるのは怖いですねえ。彼女は『敵にまわしたくない』。そうでしょう?」

 ――ああ。そうだね。


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