すべてはあの花のために④

sideトーマ


「日曜日までこっちにいるんでしょ?」

「そうですね。そのつもりです」

「ならその間にあおいちゃんを戴くとしよう」

「させませんけどね?」


 葵の荷物を持つと「すみません」ではなく「ありがとうございます」と、言わされた感のない心からの感謝が反射的に飛んできて、にっこりと笑って返す。


「そもそも、どうして葵ちゃん一人で来たの? 一人ということは、俺にもらわれるつもりだったんじゃないの?」

「何ですかそれ。新解釈過ぎませんか」


 駅ビルのカフェに入りながら尋ねると、「今回こちらに来たのは、わたしがもっと強くなるためなんです」と、葵が馬鹿真面目な顔をしていたから、負けじと「え。それ以上強くなってどうするの」とクソ真面目な顔で返してみる。


「まだ格闘面でも劣ってるところがあるので、それも極めたいところではあるんですけど」

「お願いだからやめてくれる? 多分葵ちゃんにみんな守られたくないからさ」


 こてんと首を傾げる葵が可愛すぎて、しばしの悶絶。


「でも今回は、どちらかというと精神面を強くしないといけないと思って」

「どういうこと」


 そして今度はトーマが首を傾げた。『結婚式で堂々とあんな恰好をして、堂々と自分を攫っていった君の、どこが精神面が弱いと?』と、顔面に堂々と書いて。


「……話せばとっても長くなるんです」


 今まで頑なに固執していた葵がこうして自ら行動に移した。それはきっといい変化なのだろう。
 返事が返ってこないから、少し不安を感じていたのだろう。窺うように上がってくる視線には、にっこりと笑みを返した。


「俺も葵ちゃんがいるまで気分転換しようと思ってるから、よければゆっくり教えて?」


 はいと、小さく喜びを噛み締めたように返事をする彼女の顔には『お見通しだなあ』と書いてあった。


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