すべてはあの花のために④
時代が変わるのは早いです
それから結局トーマに止められるまで写真を見ていた葵。15時前になったので、デザートを食べながら、今回ここへ来た経由を話すことにしたのだけれど。
「あの後も葵ちゃんに電話もメールもしたのに、なんか『修行してる』ってアナウンス流れるんだもん。だからホテルまで調べて来ちゃったよね」
「普通に考えればめちゃくちゃ怖いんですけど。まあトーマさんですからね。それぐらいできますよね。もう突っ込みませんよ」
葵は、そのアプリ『お留守番修行サービス&GPS検索カット』の説明をしてあげた。
「世の中にはいろんなアプリがあるんですね。時代が変わるのは早いです」
「へ、へえ~。すごいね? そ、そんなアプリがあるんだね?」
「なのでわたしがここにいることは誰も知らないんです。……ちょっと、一人になっていろいろ考えたかったし、強くなりたかったので」
適当に相槌を打ちながら、テーブルの下でトーマは超高速でヒナタへ連絡を飛ばす。〈絶対に来るな!〉と。まあ時すでに遅しなのですが。
「それはそうと、どうして強くならないといけないの? 俺的にはすっごい嬉しいけど」
「……ちょっと時間がかかりますけど、いいですか?」
「もちろん。寧ろ時間かけて話してよ」
「でも遅くはなっちゃうから、バスの中で聞こうかな」と、促してくれたトーマとともに大阪からバスに乗り込む。彼の実家がある徳島までの長い道程で、葵は今までのことをたくさん話すことにした。その前に、トーマからも話を聞くことに。
キクから、『道明寺葵という人間が、“ある病を抱えたとてもかわいそうな少女”であり、一番苦しんでるのは“彼女”だ』と聞いたこと。
その話をしたとキクが報告したのか、すぐに理事長からも連絡が来たこと。
その理事長からは、『彼女はいずれ、黒い花を咲かすだろう。赤い花と混じってしまうから。そうなったら最後、彼女の花は開かないまま、色付くことなく蕾のまま枯れるだろう』と、まるで絵本の物語のような話を聞かされたこと。
キクから聞いていたからか、理事長も話せることは少なく、もどかしそうにそう話していたと。
『彼女は今から、恐らく水をやるだろう。成長を助けながら、そうすることがごく当たり前のように』
そして……願いのことも。