すべてはあの花のために④
だから一足飛び過ぎなんですって
その後も文化祭の話をしたり、体育祭はどうだったとか、いろんな話をした。
「にしてもトーマさん。わたしこの話前もしましたよね?」
「俺は葵ちゃんの声が聞けるだけで幸せなので」
幸せそうな顔で「だから、俺もたくさん幸せ分けてもらえてるよ?」と言っていますが、トーマからは毎日のように電話が掛かってきていたので、久し振りに会った感じがしない葵である。
「(こういう時こそ、例のアプリを使ったらいいかもしれない……)」
と一瞬頭に過ったが、そんなことをした日には家にずっと鬼電が掛かってきそうだったのでやめておいた。もちろん家電は知らないだろうけど。知らないはずだけどっ。
「「久し振り変態ちゃんっ」」
「違いますー!」
最寄り駅からタクシーで彼の家まで行くと、「ただいまー。葵ちゃん迎えに行ってきたよー」と言うトーマの声に、バタバタ音を立ててご両親がお出迎えしてくれたが。
「(……そうだ。そういえば、この人たちこういう人だったわ。前も思ったわ。流石親子だって)」
ガクッと落ち込むと「まあ本当だから。こればっかりはしょうがないよ」と、トーマはフォローしてくれなかった。
「お、お元気そうで何よりです。ナツメさん、アヤメさん」
「覚えててくれたんだ!」
「待ってたのよ~。葵ちゃん知りたいでしょう? あの後の杜真の活躍っ!」
「ぜひっ!」
「……やば。放送事故だったんだっけ、あれ」
立ち話も何だからと、先に今日葵が泊まる部屋へと案内してもらうことに。
「ここが葵ちゃんの部屋よー。お嫁に来た時もここ使ってもらうつもりだから、服とか置いて行ってて全然大丈夫よ~」
「うんうん。葵ちゃんなら大歓迎だよ」
「葵ちゃん。全然下着とか置いていっていいからね」
「絶対に嫌です。今のところトーマさんと結婚する確率はゼロなんで。悪しからず」
みんな揃って落ち込んでいた。
この家族、まだ恋人にもなっていない相手に対して気が早過ぎなんですけど。
「あれ? どなたかいらしてたんですか?」
食事を用意してくださったというので、お呼ばれすることに。テーブルの上には、空いた大皿の料理や取り皿が約10枚ほど出ていた。
「さっきまで親戚の子たちが来てたのよ。よかったら食べてくれるかしら?」
「そうだったんですね。親戚の方に、気を遣わせてしまったでしょうか」
「そんなことないよ。俺らも途中だったんだ。四人で一緒に食べよう」
「ありがとうございます! いただます!」
「とってもおいしそうですね!」と楽しく会話しているその横で、何故かトーマは悩ましげに頭を抱えていたけれど。