すべてはあの花のために④

side……


 それは、真夜中の寝室。


「ねえあなた」

「うん?」


 真っ暗な部屋の中。ナツメとアヤメは、寄り添って小さな声で話をする。


「あれで、本当によかったのかしら」

「でも俺らは、こうすることしかできないから」


 サイドテーブルに置いている小さな部品のようなものを、視界の端に入れながら。


「……葵ちゃん。泣いてた」

「うん。あんなにいい子なのにな」

「あたし、あの子のお母さんに、なってあげたい……」

「うん。もっと、たくさんのことを教えてあげたいね」

「お風呂の中でもね、いろいろ聞いてみたの」

「それも、残っているのかい?」

「戸を少しだけ開けておいたの。あんまり聞こえないかもしれないけど、わからなかったら絶対に聞いてくるわよね……?」

「そうだね。……俺らも駒の一人だから」

「ねえあなた。……どうして。こんなにつらいのかしらね」

「大丈夫だよ。俺らはあの子の両親だ。きっと、また会いに来てくれるよ」

「……っ。ええ。そう。よね」


 二人の会話は、誰に聞かれることなく暗闇にそっと溶けて、消えた。


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