すべてはあの花のために④

変態はもうどうしようもない


 その頃の葵は、まだ寺へと向かえてもおりませんでした。


「……ぽっ、ポストはどこだあああーッ!」


 手紙を持って、道路端を右往左往。


「く、くそう。真っ赤だからすぐに見つかると思ったんだけど……油断した」


 早く手紙を出さないと。じゃないと……持っていたら、いつ()()()()()()()()かわからない。


「――! あっ! あったー!」


 その時、なんて幸運。後ろを振り向いたら、あるではないか。真っ赤なポストさん。


「(ん? 振り向いたら??)」


 まさかの通り過ぎていたという落ちにがっくりと肩を落とした葵は、これまた幸運なことに寺まで矢印で道案内がされている看板を発見。それに沿って行けたおかげで、道にも迷うことなく予定よりも早く着くことができた。


「おおー! 想像以上に大きい!」


 坂道を進み山を登った葵の目の前に現れたのは、趣のある大きな門。ここでレベルアップ後にボス戦が待っていそうな佇まいに、葵はついつい武者震い。


「……『西園寺(さいおんじ)』さん。うん! 間違いない!」


 あおいちゃんってば、修行なのにわくわくしたら駄目でしょう! と一人で突っ込みを入れながら、一先ず寺の方に挨拶をと思ったところで。



「久し振りね! 待ってたわよ~!」

「めっ、メールの子は、俺の個人情報ちゃんと流さないでいてくれてるかな……?」


 聞き覚えのある声の方を、まさかと思って振り返る。そこには着物の女性と、法衣の男性が。


「……き、キサちゃんの、お父様とお母様ッ?!」


 そこにいたのは、キサの生みの親。


「これ。静かにせんか」

「あ。す、すみません」

「とは言うがの。……よおく来なさった。待っておったよ」

「えっ?」


 そしてその隣には、しわしわの笑顔が素敵な住職。


「取り敢えず案内するわね。話はそこに行ってからにしましょう変態ちゃん?」

「え」

「そうそう。なんでも変態を直したいとか?」

「え」

「自分の欲望が抑えられてない証拠じゃからの。ワシがしっかりたっぷり教えて――」

「なんでそうなってるんですかあー!」


< 132 / 267 >

この作品をシェア

pagetop