すべてはあの花のために④

密かに編み出した技


 作務衣に着替えた葵は、お堂の掃除をしたり庭の掃除をしたり、使用していない部屋の掃除をしたりした。

 ――掃除をすることで、埃が出てくる。
 まずはそうすることで、自分が今、何と向き合うべきなのかを知ることができるかもしれない。

『だからまず掃除からはじめなさい』と教えられ、寺中を綺麗にしていく。


 それが終わったら、殆どは座禅。
 心を知って心を制す。自分自身を見つめ直して、葵自身の弱い心を見つけ出す。

 顔が歪んでしまったり、体が動いてしまったりしたら、カツラに活を入れてもらった。


 そして、夕食前に滝に打たれ、気持ちも体も強くする。
 しかしこれは、カツラのプランには入っていません。葵の強い熱望により、無理矢理毎食前に組み込むことに。


「夕飯のあとはどうするの?」

「あ。特には決めていませんでした」

「それだったら、本堂の裏手の山を、もう少し登ってみるといいよ」

「そうじゃそうじゃ。手を伸ばせば届きそうなほど、月がよく見える。何より景色もよくて空気も澄んどるしのお」


 お勧めスポットなら是非行きたいと言うと、『あったかくして行きなさい』といろいろ心配してくれて、なんだか心がくすぐったかった。

 その山道もどうやら案内が出ているようで、懐中電灯を借りてたくさん着込んだ葵は山道を登っていった。

 しばらくすると、開けたところに出る。


「わ。ほんとにすごい……」


 上には満天の星空と、まん丸に近いお月様。
 こんな景色は、都会ではなかなか見られない。


「……やっぱりお星様は難しいか」


 ならばせめてお月様だけでもと、その綺麗なお月様をカメラに残した。


< 136 / 267 >

この作品をシェア

pagetop