すべてはあの花のために④
二十九章 孤独

修行違い


 目が覚めた葵は、寝ていた部屋が大荒れしていてビックリした。


「うわ。どんだけ寝相悪いのよ……」


 布団は蹴飛ばすわ、荷物はいつの間にかぶちまけてるわ。襖や障子が破れていないことだけは救いだが、思わず自分の神経を疑ってしまった。


「どう? あおいちゃん。何か変われた?」


 朝食中、ツバキに尋ねられた葵は、笑顔で返した。


「全然わかりませんっ!」


「そうだろうね」と、三人は苦笑しながら頷いていた。


「でもスッキリしたので、来てよかったとは思いました!」

「そうか。それはよかったよ」

「ワシはあんな嬉しそうに滝に行く子なんかはじめて見たがのお」

「あおいちゃんがそう思ってくれるだけでもよかったわ」


 ふわりと笑う三人に、葵もつられて笑い返す。


「アオイさん。もうひとつ、気休めにもならんがこれをあげよう」


 渡されたのは、ここのお守りだった。


「このお守りは邪気を払ってくれるもんじゃ。……気のせいかもしれんが、アオイさんからは時々何かが見え隠れしておるように見える。肌身離さず持っておきなさい。何かの役に、立ってくれるかもしれん」


 葵は、そのお守りをぎゅっと握り締めた。


「……はい。心配してくださって、ありがとうございますっ」


 なんだかんだで楽しかった修行は、あっという間に終わってしまった。桐生家ではご飯を作ったり、西園寺ではお掃除をしたり。


「(……今考えたら、花嫁修業っぽくない? 修行違いなんですけど……)」


 そうこうしているうちに時刻は10時前に。
 西園寺まで、トーマが迎えに来てくれた。


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