すべてはあの花のために④

sideトーマ


「動物園ですかあああ?!」

「う、うん。そうだけど……」


 ランチ後に動物園へ行くつもりだと伝えると、葵のテンションは急上昇。


「わあ~! すっごい楽しみです!」

「(……喜んでもらえてよかった)」


 はしゃいでいる葵を見て、トーマも嬉しくなる。


「(……にしても、全然突っかかってこないんだな)」


 葵にバレないよう、そちらに意識を向ける。彼らは、よくわからない雰囲気を醸し出していた。もちろんこの状況を楽しんではいないだろう。キサはさておき。かと言って怒ってもいないよう。
 もしかしたら、葵の楽しそうな様子の邪魔は、しないようにしているのかもしれない。


「(お前ら、どんだけ不器用なんだよ)」


 だったら悪いけど、こっちは本気で掻っ攫うぞ。



「わー! トーマさんトーマさん!」

「はいはいー。今度は何ー?」


 動物園に着くや否や、本気で走り出しそうな葵の手をガッチリ手を繋いだトーマ。引っ張られる力が途轍もなく、顔には出さないようにしているものの、押さえつけるのに必死になっていた。


「トーマさんゾウさん!」

「はいはいー」

「ぱおーんって! 本当に言うんですね!」

「そうだねー」


 あっちに行ったりこっちに行ったり。


「トーマさんこっちはフラミンゴがいます!」

「ほんとだねー」

「本当に片足でずっと立ってるんですか? すごーい!」

「そうだね~」


 小動物が好きと公言している葵だけれど。


「トーマさんライオンさん!」

「うん。かっこいいね」

「はい! がお~」

「ははっ。ガオー」


 そんな彼女を、今すぐ食べたいと思っていたトーマ。


「(……実際に見るものは、初めてなものばかりか)」


 葵の様子を見ているだけで、嫌でもわかってしまう。


「トーマさんトーマさん! おサルがいっぱいですよ! お尻真っ赤! 座りすぎたんですかね?」

「きっと、お風呂に浸かってたんじゃない?」

「おおー! なるほどです!」


 子どものようにはしゃぐ葵は、初めて見た。


「(あいつらもきっと、驚いて――……ん?)」


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