すべてはあの花のために④

さようならなんて言いません


 十分楽しんだ時にはもう、日が傾きかけていた。


「冬はやっぱり、日が沈むのが早いですね」

「……あともう一カ所連れて行きたいことがあるんだけど、大丈夫?」

「はい! 大丈夫です!」


 その頃にはもう、差し出された手を自然と取って歩いていた。
 そして葵たちは、電車に揺られてバスに乗り、ある高台へ。


「俺のお気に入りスポット」


 トーマが連れてきてくれた場所は、町全体を見下ろすことができる、絶景ポイント。辺りには色とりどりの花が咲いていて、とても綺麗だった。


「(……あの子と会ったのも、こんな風にお花がいっぱい咲いてる場所だったな……)」

「ここはね、俺の好きな場所に似てるんだ」

「……え?」

「俺がまだあっちにいた時。こことよく似た綺麗な花畑があってさ」


「あいつらともよく遊んだ。みんなのお気に入りな場所」と話すトーマの横顔を、葵はじっと見上げた。



 そして、その視線を綺麗な景色へと戻す頃の葵の横顔は、どこか寂しげだった。


「ここは夜景の方が綺麗なんだ」


 トーマが見せてくれた画面には、ライトアップした町並みが綺麗に映し出されている。


「トーマさん、本当に撮るのがお上手ですね」

「そう? まあ好きでやってることだし、やるならこだわりたいよね」


 葵に褒められて嬉しいのか、ちょっと嬉しそうだ。


「それで? 俺のデートプランはどうでしたか?」

「もう、さいっこうですっ! とっても楽しかった!」

「それはよかった。……ま、今日のデートプランは父母監修だったりするんだけど」

「えっ?」


 そう言うや否や、トーマはお腹を抱えて笑い出す。


「葵ちゃんとデートするんだって言ったら、あのあとめちゃくちゃ念入りに計画立てられまして」

「そ、それはそれは」

「なんかおかしくってさ? 俺より必死なんだもん。ほんと、超ウケる」

「ふふ。想像つきます」


 しゃがみ込んだトーマの横に、葵も並んで座る。


「まあ、当初の予定よりだいぶ違うけど」

「え」

「やっぱり俺が、葵ちゃんを楽しませてあげたかったから」


< 151 / 267 >

この作品をシェア

pagetop