すべてはあの花のために④
さようならなんて言いません
十分楽しんだ時にはもう、日が傾きかけていた。
「冬はやっぱり、日が沈むのが早いですね」
「……あともう一カ所連れて行きたいことがあるんだけど、大丈夫?」
「はい! 大丈夫です!」
その頃にはもう、差し出された手を自然と取って歩いていた。
そして葵たちは、電車に揺られてバスに乗り、ある高台へ。
「俺のお気に入りスポット」
トーマが連れてきてくれた場所は、町全体を見下ろすことができる、絶景ポイント。辺りには色とりどりの花が咲いていて、とても綺麗だった。
「(……あの子と会ったのも、こんな風にお花がいっぱい咲いてる場所だったな……)」
「ここはね、俺の好きな場所に似てるんだ」
「……え?」
「俺がまだあっちにいた時。こことよく似た綺麗な花畑があってさ」
「あいつらともよく遊んだ。みんなのお気に入りな場所」と話すトーマの横顔を、葵はじっと見上げた。
そして、その視線を綺麗な景色へと戻す頃の葵の横顔は、どこか寂しげだった。
「ここは夜景の方が綺麗なんだ」
トーマが見せてくれた画面には、ライトアップした町並みが綺麗に映し出されている。
「トーマさん、本当に撮るのがお上手ですね」
「そう? まあ好きでやってることだし、やるならこだわりたいよね」
葵に褒められて嬉しいのか、ちょっと嬉しそうだ。
「それで? 俺のデートプランはどうでしたか?」
「もう、さいっこうですっ! とっても楽しかった!」
「それはよかった。……ま、今日のデートプランは父母監修だったりするんだけど」
「えっ?」
そう言うや否や、トーマはお腹を抱えて笑い出す。
「葵ちゃんとデートするんだって言ったら、あのあとめちゃくちゃ念入りに計画立てられまして」
「そ、それはそれは」
「なんかおかしくってさ? 俺より必死なんだもん。ほんと、超ウケる」
「ふふ。想像つきます」
しゃがみ込んだトーマの横に、葵も並んで座る。
「まあ、当初の予定よりだいぶ違うけど」
「え」
「やっぱり俺が、葵ちゃんを楽しませてあげたかったから」