すべてはあの花のために④

真っ赤になるまでしなくても


 明日は学校だからとシントに迎えをお願いした葵は、脇役の執念にやれやれと肩をマッサージしながらみんなのところへと戻ろうとしていた。

 すると、焦った様子で電話中のチカゼがこちらへとやってくる。


「? チカく――」

「おい! 今どこにいるんだよッ!」


 すごくつらそうな彼は、今にも泣き出してしまいそうだった。


「……っ、ああ。わか、った。……ついててっ、やってくれ。たのむ……ッ」


 すっかりしゃがみ込んだチカゼは、電話を切り終わった後もずっとスマホを握り締め、震える手を体を、必死に押し殺そうとしていた。

 そんな彼の横に座って、葵はそっと、彼の手を包み込むように触れる。すると、まるで今初めて葵の存在に気づいたかのように、彼は大きく体を震わせた。


「大丈夫。……大丈夫だよ」

「……あ。おい……」

「ちゃんとそばにいるから。……だから、寂しくないよ」

「――……ッ」


 チカゼは、葵の体を引き寄せて、震えを押さえ込むように力を入れて抱き締めた。


「ちゃんと見てる。……見捨てたり、するわけないじゃないか」

「……っ。……ん。さんきゅ……」


 力を少し緩めただけで、それ以上彼は、何も言わなかった。


「――! チカく……」


 そのあと葵たちは、駅に着くまで互いを抱き締め合っていた。
 到着間近のアナウンスに、動かない彼の手を引いて席に戻ろうとすると、後ろから突然チカゼに抱き締められる。肩に額を寄せる彼は、やっぱりどこか苦しそうで。

 一瞬回ってきている腕に力がこもったかと思うと、そっと離れたので顔を見ようと振り返った。


「悪い。助かった」


 そう言って、彼は一人で席に戻り出す。



「……全然、そう思ってないじゃない」


 彼の顔はまた、大人びていた。


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