すべてはあの花のために④
sideツバサ
「おーい。そろそろ帰らないと、明日学校でしょー?」
シントが窓を開けて声を掛けてくる。
「そうだった! それじゃあツバサくん、また明日」
「――あっ、葵!」
その背中に手を伸ばして、ぐっと葵を腕の中に閉じ込めた。
「つ、ツバサくん……?」
ぎゅうぎゅうと、体が軋むほど強く。縋るように。震えているのを少しでも隠せるように。
「……まだ、話せなくて悪い」
別々に帰っていること。
どうして、こんな恰好をしているのか。
「うん。……大丈夫。大丈夫だよ、ツバサくん。無理に言わなくていいんだ」
「……ッ。ん」
そっと離れたあと、ゆっくりと彼女が振り返る。
「……俺は、いいんだっ。俺はまだ、頑張れるから……」
そのやさしい表情に、弱音が小さく漏れた。
「……俺がこうしてるのは、ただの自己満足でしかない。一番苦しんでるのは、……あいつなんだよ」
「ツバサくん……」
「だから、助けてやって。あいつを。あいつが……自分を、失う前に」
「……うん。大丈夫だ。任せなさい! 桜のあっちゃんが、何とかしてやろうじゃないか!」
よ~しよしと、大型犬を撫でるようにわしゃわしゃと頭を撫でながら笑う彼女に、頑張って笑顔を返した。
「笑う門には福来たるって言うでしょう? だから。……どうかツバサくんは笑っていて? そうしたらきっと、彼もまだ、自分を失わないで済むからね。大丈夫だよ」
「……ん。ありがとう」
「絶対……わたしが、壊させやしないから」
「……あ、おい……?」
また葵の目が鋭くなる。
けれど、すぐにその表情は笑顔に崩れた。
「それじゃ! また明日ねツバサくん!」
慌てて作った笑顔を最後に、葵たちの車は去って行った。