すべてはあの花のために④
三十章 アネモネ

 毎日が楽しかった。
 外で遊んでは、そのことを話して。

 毎日が幸せだった。
 疲れ果てて、あったかい膝の上で寝転んで。


 目を瞑ると、つい先程のことのように思い出す。
 ……心の底から、幸せだった日々を。





 毎日が、寂しかった。

 どれくらい泣いたかわからない。
 どれくらい叫んだかわからない。

 それでも我慢した。


 いつか会えると信じてたから。
 また、あったかい腕で抱き締めてくれると思ってたから。


「――――」


 それが崩れるなんて、思いもしなかったから。





 いつになったら強くなるんだと。
 幾度となく繰り返される自問自答に、ため息を落とす。


「……わかってんだよ。んなこと」


 鳴り続ける電話。
 それがまるで、答えを急いているかのように震えていて。


「…………はあ。くそっ……」


 涙声のような息を吐きながら。
 ポケットに入ったそれを、ぎゅっと握り込んだ。


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