すべてはあの花のために④
自分でも変態だと思ってるから
「オレが今までこうしてこられたのは、たくさんの人のおかげがあったから。学校の、ある一定の奴らにビビられてるのは、多分オレが小5の時にぶっ飛ばした奴か、それを見てビビってる奴。女子には……なんでかよくわかんねえけど、怖がられてないのが不思議なくらいもみくちゃにされることが極たまにある。ま、お披露目ん時は変態マンがオレのこと、助けてくれたけどな?」
と、一通り話してくれたものの、何と言えばいいかわからなくて。
「お、お~い。アオイさん? なんか言ってくれや」
「…………」
「んー。どうしたもんか」
完全に黙って俯いている葵に、困った様子でチカゼはぽりぽりと頭を掻いていた。
それでも葵の言葉を待つ姿勢は変わらなくて、彼がポケットに手を突っ込んだ拍子に彼の名前を呼ぶ。
「おう。なんだよ」
「……つらかったね」
苦しかったね。しんどかったね。悲しかったね。寂しかったね。
口から出てくるのはそんな言葉ばかり。でも、チカゼの目からはまた、涙が流れ始める。
「あー……もう。なんなんだよ。これ……」
きっともう、泣く気はなかったのだろう。
「……っ、なんでっ。止まん。ねえんだよ……」
ボロボロと、涙が零れ落ちる。
今度は、それを拭わなかった。
「言ったでしょう? 泣きたい時は、泣けばいいって」
「……。ん」
「つらい時はつらいって、言っていいんだよ?」
「……しんど、かった」
「……。うん」
「親父と母ちゃんに、オレは見捨てられたのかと思ったら。……いっつも。苦しかった」
「う。ん」
「オレのこと可哀想な奴って。夜逃げするような親の子だって。……そんな風に。言われて来た。見られて、来た」
「……うん」
「嫌だった。親父と母ちゃんにっ。……会い、たいんだっ。オレはっ」
「うん。……うん」
「なんで。迎えに来てくんなかったのかとか。聞きたいこと。いっぱいあるんだ。……でも、それはもうできないから。これからは。ばばあのために……っ」
未来のことを考えて話すチカゼに、葵は胸が痛んだ。
「そっか。チカくんは、そんなことまで考えてて。えらいね」
チカゼの頭をよしよしと撫でる。彼は、その手をはね除けようとはしなかった。寧ろ、気持ちよさそうに顔を緩ませて、もっと撫でてくれと。そう、顔が言っていた。
「(やっぱり、ネコさんみたいだな)」