すべてはあの花のために④
side……
『お義母さん。俺らに何かあったら、チカゼをよろしく頼みます』
『お母さん。あたしからも、お願いします』
ある日、高千穂の家に来るや否や、二人は畳に額を擦り付けながら頭を下げた。
『何言うとるんや。……何が、どうしたんや』
けれど二人は、何も言わずにただ、頭を下げるだけ。
でも、そのあとすぐ、どういうことかわかった。ヒイラギの景気が一気に悪くなったからだと。
原因は内部告発なんて言われとる。けど、実際は違う。社員の誰かが、不良品を表に出しよった。
毎日二人は、いろんな子会社に謝罪しに行きよった。
毎日毎日、疲れ果てても、チカゼにはそんな顔絶対に見せんかった。
でも、現状のままでの立て直しは難しかった。気付いた時にはもう被害が甚大だったから。
社長だった父親は、社員を首にしていく他方法がなかった。母親も、その手伝いをしよった。
でもその裏側で、二人は誰にも見つからんように、そんなことした社員を調べていった。
「それには、俺も手を貸した」
入れ替わりように、会話に加わってきたのはカエデ。
彼らの下で働いていた俺も、一緒に犯人を捜した。
犯人はすぐ見つかったさ。でも、人がやさしかった二人は、ただそいつを切っただけ。
警察につき出したり、どうしてこんなことをしたのか、深くは聞かなかった。ほんと、心底やさしい人たちだったから。
……でも、そいつを切っただけじゃ、終わらなかった。止まらなかった。
きっと、そいつだけじゃなくてまだ他にもいたんだよ、犯人が。
一気に傾きだした会社の立て直しと犯人捜しをやめた二人は、社員の将来を考えた。
みんなに、新しい働き口を――……でも、一気に評判も落ちぶれちまった会社だ。そんなところで働いてた社員を採ってくれるところなんてなかなかなかった。
それでも……二人は会社が潰れちまっても、俺ら社員のために身を削る思いで、働き口を探し続けてくれた。
会社は多分、チカゼくんが6つになった頃、最終的には潰れた。
俺もギリギリまで二人の手伝いをして、他の社員たちの仕事場を探してはいたけどな。俺もあっさり切られた。