すべてはあの花のために④

……じゅるりっ


 ヒエンに後を頼み、オウリに連れられた葵は彼の部屋へと案内された。そして案内されてすぐ、両手を突いて項垂れていた。オウリは一緒にしゃがんで、しばらくの間背中を摩ってくれていた。


「(……っ。オウリくんの部屋が。普通にシンプルだった……)」


 可愛い動物のぬいぐるみが並んだベッドとか!
 海の生き物の絵柄が描いてあるカーテンとか!
 完全に子ども部屋をイメージしてたのに、まさかこんなとこで期待を裏切られるなんて!


 するとオウリは、いきなり立ち上がって何かを漁り始める。
 どうしたのだろうかとしばらく待っていると、彼が取り出したのは一冊のアルバム。座り込んでいる葵のところへ、それをにこにこしながら持ってきてくれた。



【おーちゃんの思い出】


 題名を見て彼の顔を見る。
 でも彼の顔はやっぱり笑っていて。

 そっと葵の手を取った彼は、葵を彼のベッドの上に座らせた。



〈動物のぬいぐるみとか
 なくってごめんね?

 その代わりちょっとだけ
 このアルバム見てて
 待ってて欲しいんだ~〉


「(やっぱり願望ってもれちゃうのかな。気をつけないと)」


 頷くとオウリは満足そうに笑って、今度は机に向かって何かを書き始めていた。
 葵は、オウリの用事が終わるまで、アルバムを見せてもらうことに。



「(わあー。食べちゃいたいんですけどおー……じゅるりっ)」


 アルバムを開いた途端に涎が出てしまったので、その音でオウリは若干ビクビクしていたけれど。


「(めちゃんこかわええー!)」


 最初に出てきたのは、オウリが生まれてすぐの写真。今朝病院で会った女性に抱かれていた。その横には、寄り添うように幸せいっぱいに笑っている男性が。


「(彼とはもう。会うことは……)」


 葵は彼が写った写真を見る度、小さく頭を下げた。


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