すべてはあの花のために④

蕾と花。どっちが好きですか?


「いい雰囲気のとこ、申し訳ないんやけど」

「「――?!」」


 弾かれるように二人は離れた。


「まあそういうことや。チカゼ、もうしとうなかったら茶道はやめてええ」

「はっ。何言ってんだよ。ばばあの跡継ぐ気満々だっつの」

「何言ってるんや。そんなのまだまだや」

「へえへえ」


 いつもの雰囲気に戻ったのか、みんながふわりと笑う。
 でも一人だけ、葵のことをじっと目で見ていた。


『ちょっと、外出てくれるか』


 そう言いたげな視線に、小さく頷く。
 あとは幼馴染みと家族に任せて、二人はちょっと席を外すと病室から出て行った。


 一体どこまで行くのか。全く人気がない、病院の裏側の方に連れてこられる。


「俺があそこの会社で働いてたのは、シントに聞いたか」

「はい。……と言っても、本当についさっきですけど」


 相手はカエデ。きっと【あのこと】で話があるのだろう。

 いつか連絡が来ると思っていたが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。でも、早いに越したことはない。


「にしてもお嬢ちゃん、いつの間にチカゼくんとあんな仲良くなってたんだ。……アキの奴ピンチじゃねえかよ」


 あ、あれ?
 予想してた話と違うんですけど。


「いつも仲良いですけど……?」

「いや、なんか違うんだよ。……まさか、一線越えたか?」

「一線?」

「いや、アキが傷つくかもしれねえからやめとくわ」


 葵は首を傾げていたけれど、返ってくるのはため息だけだった。


「それはそうと、お嬢ちゃんはすごいな。アキだけじゃなくてチカゼくんもちゃんと見てくれてたんだな」

「……それが彼との約束ですから」

「んじゃ、そろそろ本題にいくか」

「はい、そうですね」


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